第13話
「そうだった」
空腹のレスティナを見て、歩人は思い出したかのようにタッパーを2人の前に差し出した。
「これは?」
「晩御飯の残りだけど、もしかしたら、まだかなと思って」
「そ、そう言えば、それどころではなかったからな」
レスティナの言葉に不安を感じた歩人は、怪訝な表情を浮かべる。
「じゃ、じゃあ、いつから食べてないの?」
「そうですね、こちらに来て1日経ちましたが、追っ手から逃げたりと、色々と必死でしたから」
「じゃあ、昨日から食べてなかったの?」
「残念ながら、わたくし達はこちらの貨幣を持っておりませんので」
歩人の問いに答えるクロエは、話の内容に反し笑顔を崩さないでいるが、クロエにしても空腹には変わりがないだろうし、自身の辛さを一切見せない彼女に対し歩人は感心するばかりであった。
「そ、そうなんだ」
そう答えつつ、歩人は少しでも早く2人に食事をとらせたいと思い、タッパーとスプーンをクロエに渡す。
そしてスプーンは普通のサイズの物と、レスティナが使えそうなサイズのスプーンを、杏奈のコレクションから拝借して持って来ていた。
「ありがたく頂こう」
レスティナの言葉と共に、レスティナとクロエは歩人に深々と頭を下げるが、歩人は流石に恐縮してしまう。
「そんなに、気にしなくてもいいから」
その後しばらく2人の食事タイムとなり、流石に歩人も2人の食事風景を観察する訳にもいかないので、とりあえず学校の宿題を進める事にした。
「良い食事であった」
しばらくして聞こえたレスティアの言葉に、歩人は2人を見ると2人とも満足気な表情を浮かべている。
「とても美味しかったです」
「礼を言うぞ、歩人」
「作ったのは母さんだけどね」
普段なら照れ臭い気持ちが勝り、母親である杏奈の事を口にする事は避けるところだが、杏奈の料理を褒められた事は歩人にとって素直に嬉しいものであった。
「なら、礼を言わねば」
そんな歩人を見てレスティナはそう口にしたものの、レスティナの意に反し歩人の表情は一瞬にして冴えないものに変わる。
「それは、どうかな」
「そうですね。歩人様でもあれだけ驚かれたのですから、やはりこちらの方々との接触は最低限にしておくべきかと思われます」
レスティナの厚意は痛いほど理解出来たものの、結局はクロエの言葉が全てあり、歩人はレスティナに対して申し訳ない気持ちになるが、同時にクロエが自身の心情を察してくれた事で少しばかり心を軽くする事が出来た。
「残念だが、仕方が無いか」
レスティナは溜め息交じりにそう告げるが、その表情は納得しているものである。
「さてと」
レスティナはそう口にしてクロエに目をやると、クロエは静かに頷いて見せた。
「歩人、少しばかり時間を貰えるか?」
「うん、良いけど」
歩人の答えにレスティナは目を細める。
「歩人にとっては不本意であろうが、結果的に我等をこうして保護して、食事も与えてくれた。その礼というには粗末なものではあるが、折角なので我等がなぜこうなったのかを話しておきたいと思ってな」
レスティナの真剣な眼差しに、歩人は声を出すのも忘れただ頷くだけであった。
「それで少しは、我等と我等の住む世界について、触れて貰えると思う」
そう告げたレスティナは、ゆっくり目を閉じて静かに息を吐くと、再び目を開け歩人を視界に捉え口を開く。
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