第六十七話:魔法使いの父娘

 クラウスが注目していた英雄達やカーリー、エリスとサラは順調に勝ち抜いていく。

 むしろ、本当に英雄達をお披露目している大会と言った感じで、まるで危なげがない。

 一国のトップと世界のトップである英雄達との差は余りにも大きいようで、真剣にはやっている様だがやはり全力を出せば殺してしまう可能性が高いのか、心なしか手加減している為に底が見えない。


 英雄ルークも同じで、サラとはまるで違う戦い方をしていた。

 相手の凡ゆる魔法や攻撃を無効化して、得意の大規模殲滅魔法を器用にも相手にだけ当たらないように放ち、圧倒的な差を見せつけることで降参を促す戦い方。

 見た目的に最も地味になってしまった娘のサラとは真逆で、全選手で最も派手な戦い。


 その為サラはルークとは全く似ずにエレナ似なのだという話が会場内では囁かれていた。

 目には見えない魔法を使うエレナの娘なのだから、戦い方は地味でも仕方が無い。

 何せエレナは基本棒立ちのままどんな魔物でも倒してしまう英雄だ。


 三回戦目を終えて、サラの評価はその様に変わってきていた。


「ははは、サラに対しての勘違いはやっぱり起こるものですね」

「どちらかと言えばあの子はルー君似だろうにねえ」


 それはない、と思いつつ訂正することも無く頷いてみせると、三回戦を終えたサラは三度嬉しそうな顔をクラウスに向けた。


「次はいよいよエリス様との戦いですね」


 叫ばなければアリーナには声が届かないないので、サラに目を向けたままそう隣のエレナに言うと、声は反対側から聞こえてきた。


「さらがかつよ」

「いいえ、お母さまが勝つのよ」

「さらのほうがつよいもん」

「んーん、お母さまの方が強いわ」


 サラが勝ったのを見た途端に、マナとブリジット姫がそんな風に言い合いを始めた。

 と言っても喧嘩ではなく、単純な応援合戦といった様子で険悪な雰囲気は漂ってはいない。

 直前までは二人共がエリスとサラを応援していたのだから突然敵になることもなく、むしろ微笑ましい。

 ブリジット姫は王女ということもあって、

「でも、サラさんもとても強いわ。だからわたしはお母さまをおうえんするの」

 とサラやマナをも気にかけている為、マナも「うん。ブリジットちゃんのままに負けないようにおうえんする!」と気遣うことが出来ている様子。


「流石は王女様ね。オリヴィアさんとブリジットちゃんはしっかりと血縁を感じられて、なんだか微笑ましい。サラはあんな頃無かったものね」


 エレナもそう言いながら見守ると、「でも、やっぱり勝つのはサラね」と大人気なく参加する。

 すると「俺はエリスが勝つ方に賭けますよ、エレナさん」と王であるアーツも参加し始めて、それぞれがそれぞれに主張を始めた。


 クラウスから見て、二人の実力は拮抗している様に見えていた。

 英雄レベルには一歩及ばずながら、互いに全力を出し切れる相手には出会えていない。

 どれだけの余力を残しているのかは明瞭でないからどちらかが上かもしれないが、英雄達程手加減をしている様には見えない。

 それらを総合すると、二人共がカーリーよりも上でイリスよりも下といった辺りだろう。

 そこに自分が参戦すればどうなるかの興味もあるものの、英雄には未だに勝つイメージはないが、恐らく修行を終えた二人に負けることは無いだろう。

 クラウスが立てたのは、そんな予測。


 つまり、今大会のベストバウトは第四回戦のエリス・A・グレージアvsサラ・スカイウォードになる可能性が非常に高い。


 と、そこまで考えて思う。

 皆がどちらが勝つかで盛り上がっているのは、そんな予想を同じく立ててしまっているからだ。

 無意識だろうが意識的だろうが、クラウスだけではなく英雄であるエレナも一般人であるアーツも、そして子ども達も同じく、二人の実力が伯仲しているのだと感じている。

 それに、エリスはまだ宝剣の力を全く使っていないし、サラもまた地味な魔法しか使っていない。

 互いに全力を出し切る前に決着がついてしまっている為に、互いにまだ本領を発揮してはいない。

 ある程度身近に二人が居た人物は、それを分かっているのだろう。


 会場内は未だに流石はあの悪夢の娘だという評価なのが面白いが、クラウスもまたいつの間にか順調に勝ち進んだ二人の戦いを楽しみにしていることに気づいた。


 そして、ルークの試合が始まる。

 その試合もまた、エリスとサラの戦いを楽しみにしているかの様にいつもとは少し違う戦いだった。


 試合が始まって直後、ルークはその場に陽炎を残して姿を消し、数秒の後に相手の背後に現れたかと思えば左手に持った杖を相手に突きつける。

 流石に三回戦まで残ってきた勇者もまた即座に反応してその杖を弾き飛ばすが、その杖は本物では無かった。

 それはただの蔦の魔法に幻術をかけて造ったデコイで、剣を振るった腕そのまま絡みとると、それを締め付けて剣を取り落とさせてしまう。

 直後、陽炎に見えていた所から本当のルークが姿を現した。


「ふう、実は僕も多少の幻術は使えるんだよ。ただし、正確にイメージするのは難しいから鏡合わせになっちゃうんだけどね」


 本物に背を向けた状態で蔦に絡み取られた対戦相手は背後に感じた熱から逆転の目が無いと知ったのか、たまらず降参を宣言する。

 互いに礼を終えたあと、対戦相手だった勇者は問うた。


「いつもとは随分と違う戦い方なんですね……」


 それはまるでいつもの様な広域殲滅の魔法への対策ならしていた様で、思惑とはまるで違う結果に困惑している様子だった。

 対してルークは、頭を掻きながら答える。

 それはやはり親馬鹿の様な言葉だったが、同時に英雄の強さの根源を見ることになる。


「いやー、娘が頑張ってるから僕も少し格好良い所を見せたくなってしまってね」


 その言葉は、ちょっと格好を付けたかったという理由で全く得意ではない戦い方に簡単に翻弄され、あっけなく負けてしまった自分の弱さを見せつけられている様に思えたからだった。

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