第七話:見せるのはお師匠様だけと決めてますわ!

※本日22時にもう一話投稿、明日からは22時投稿にしていきます。

 詳しくは近況ノートへ





 砂漠のオアシスに辿り着く。

 二人が初めて足を踏み入れるその地は、砂漠にある水辺に出来た街、ではなく、森に囲まれている。


「ここが聖女様発祥の地ね……」

「そうですわね。お姉様はここで初めて奇跡を見せたと言われていますわ」


 聖女サニィは、世界の至る所で奇跡を起こしている。

 代表的なものが、世界中を繋ぐ青い花の道。

 聖女サニィの残した転移魔法の座標にもなっているその道は、決して枯れない美しい花とも相まって、彼女をなぞって冒険する者も多いと言う。


 そしてその奇跡が世界で最初に認知された場所が、ここオアシスだ。

 彼女はオアシスの門前に森を発生させた。

 マナを吸い成長するその森は日々拡大を続け、オアシスの周囲を囲ったところで一先ずの落ち着きを見せた。


 その森は砂漠の暑さを和らげ、水を貯蔵する。

 オアシスを目指す者には目立つ指標にもなる。

 そして何より、デザートオークなど低位の魔物の進入を自動的に防いでくれる。


 だからこそ、このオアシスは聖女が奇跡を起こして以来大きな発展をみせてきた。

 ここはそんな聖女の奇跡を直接賜った地として、住人のほぼ全てが聖女を信奉しており、聖地としても栄えて来たのだった。


「よし、早速わたくしは会長として支部長に挨拶して来ますわ」

「まて」


 着いてすぐにオリヴィアが鼻息荒く駆け出そうとするのを、足を掴んでエリーが止める。

 オリヴィアは『聖女を讃える会』等と言う怪しげな、国公認の会の会長だ。

 とは言えオリヴィアもビターンとこけるわけではなく、器用に反転しながらエリーの方を向きなおる。

 思わずめくれそうなスカートに、住人達の視線が釘付けになる。


「何をしますのエリーさん。わたくしはお姉様の信者として、妹として、すべきことをしなくては」

「なら尚更問題解決から。師匠に言いつけるわよ」

「うっ……」


 師匠に言いつけると言われると、反射的に体が硬直してしまう。

 恐怖と、お仕置きを期待するのと半々。

 もう居ないのはわかっていても、いつ現れても何もおかしくない。それ程に最強の師匠。

 だからこそ、未だに反応してしまう。


「ほら、変態熟女姫会長、南の方だから」

「はぁーい、熟女じゃないですけれどー」


 お仕置きを期待したのが伝わったのだろう。エリーは辛辣な言葉をかけながらその掴んだままの足を引っ張ると、オリヴィアは器用に片足でジャンプしながら引っ張られて行く。

 民衆達はそんなあられもない姿の絶世の美女のスカートの中をなんとか覗きたいと考えるが、歴戦の姫はそれを許さない。

 すぐに邪な気持ちが溢れているのを感じたエリーが手を離すまで、オリヴィアはされるがままに引っ張られるのだった。


「本当にオリ姉は見た目だけは良いからやんなるなー」


 そう呟きながら、エリーはオリヴィアを連れて南へと向かう。

 しかし、オリヴィアのスカートに注目していたうちの一人がふと気付く。


「もしかして、オリヴィア姫ですか?」

「ええ、そうですわ」


その男は驚愕に目を見開いた後、周囲を見渡すと、その全員が全力で土下座をする。


「しっ失礼致しました。王女殿下で不埒なことを考えてしまい、同じく聖女様にこの身を捧げた者でありながら……」


 そう、懺悔を始める。


「面を上げい」


 と、答えのはエリーだった。


「あ、あなたは……」

「私はオリヴィアの姉弟子にして聖女の代弁者エリー。よく聞け。聖女サニィは言った。まずはたった一人を愛しなさいと。そしてそれは妻であって、生まれてくる子どもへと広がっていく。必ず清く正しく一人から始めなさい。それを破り姫のパンツなど見たいと思ったあなた達には、死刑が相応しいわ!」

「な……、ど、どうかお許しを……」

「聖女様が許してくれる方法は一つだけよ。一ヶ月間の禁欲。それ以外に死刑から逃れる方法は無いわ」

「は、……はい。代弁者エリー様……」


 そう言って、男達は決意を固めた顔をして去っていった。オリヴィアまでもが、何も言わず何かに抗おうとしている。


「ふう、これで静かになったわね」

「え、エリーさん、ち、力を悪用するのはよろしくな、ないと思いますわ……」


 ようやく落ち着いたとばかりの顔をするエリーに、オリヴィアは必死に訴える。


「オリ姉はパンツ見られたかったの?」

「見せるのはお師匠様だけと決めてますわ!」

「う、簡単に破らないでよね」


 エリーの力は以前、心を読むことだった。

 それが、師匠が居なくなってからの全力の修行の末、新たな極地へと辿り着いていた。

 エリーの本気の言葉は、どんな荒唐無稽なことでも説得力を持ってしまう。普段は使わないけれど、たまに余りに下ネタが酷いとこうして使っている。

 憂さ晴らしを兼ねて。

 エリーの下ネタ嫌いは主に父に原因があるのだが、それは今は置いておくとして。


「でも、今回は仕方ありませんわ。わたくしの足を掴んで殿方の視線を釘付けにしたのはエリーさんですもの。彼らも悪くありませんわ」

「う……、本当に見た目だけの人は……」

「わたくしの方が強いですし」

「先月は私が勝ったから」

「初めてで、しかも偶然でしたわ」


 エリーの説教を受けなかった民衆が再び二人に注目する。

 オリヴィアのこれまでの功績【サンダープリンセス】の強さと名声はここにも広まっている。

 鬼神を彷彿とさせる強さ、赤い髪、そして上品な所作はともかく、徹底的に魔物を追い立てるその戦いの激しさ。

 そんな王女を前にして、この自称姉弟子は食ってかかっている。

 これはとんでもないことが起こるのではという不安と、とんでもないことが見られるのではという期待。

 いつの間にか、エリーの洗脳を解かれた者達も再びこの場に戻ってきている。


 「それじゃ今から試合ですわ。試合は月に一度、そう言ったのはあなたですわよ」

 「あ、ちょっと待った」

 「なんですの?」


 エリーが不意に真顔になる。

 そういう時は、何かがある時だ。

 オリヴィアもそれだけははっきりと理解している。

 エリーの能力は今や人や動物、魔物だけに限らない。

 大気から伝わる不安感等も、感じ取ることが出来てしまう。


 「あ、これ、生まれたのドラゴンだ」


 そんな一言に、民衆はパニックに陥った。

 起こったのは、単純に魔物による、とんでもないことだった。

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