第217話:二人の英雄は知らない
「うわぁ、なんか凄いことになってますね」
オアシスが見えるなり、サニィはそう驚く。
探知が出来るとは言え、それは本来の目で見るのとはまた違う。
ましてや、今回の旅はレインと一緒ということに大きな意味がある。だからこそ、今は探知はマナを感じるだけで、透視は極力使わない様にしている。
4年前とは、随分と違う。
旅の持つ意味も、世界の見え方も、そしてオアシスの様子も。
オアシスの西半分が、町を囲うように森に覆われている。
「これは、お前の魔法だな」
「皆さん喜んでましたけど、随分とまぁ成長しましたね」
以前ここを訪れた際、デザートオークの襲撃からオアシスを守る為に作った森だ。
サニィが聖女と呼ばれ始めるに至った理由の一つ。
砂漠の灼熱の気候はその森の出現とともに、少なくともその付近だけは抑えられることになった。
さらにその植物はマナ吸収して育ち、水を貯め、近づいた魔物を自動的に攻撃する。
マナに語りかけることが出来るサニィにか発動できない偉業のとも異形とも言える奇跡。
それが、大体倍程に広がっている。
「隠れてないと大変なことになりそうですね」
「お前はあんま目立つの好きじゃないくせに毎回派手なことをするよな」
「う……」
ここ然り、マナスル然り、アルカナウィンド然り、そしてエリーの故郷然り。
言われてみれば、そこまでのことをしろとは一言も言われていないのに、必ず目立つことをしている。
「本当は目立つの好きなのか?」
「い、いえ、そういうわけじゃないですけど……。何故か私の開花は残っちゃうってこの時は知らなかったんですよね……」
それからもやってる気がするが……。
と言うのは最早不毛なので置いておくことにして、二人はオアシスに足を踏み入れる。
すると、予想通りと言うかなんというか、皆が聖女を崇拝していた。
どこの店にもそれなりの聖女の肖像画が飾られており、森の、サニィが魔法を使った位置には祭壇が置かれ、供物が備えられている。
そして『聖女様を讃える会』の支部があるのはもちろん、その中には聖女様がオアシスにもたらした奇跡が資料として列挙されている。
どうにも、西側を殆ど守る必要がなくなったことと、森が貯水してくれるおかげで水の使いすぎに気を使う必要性が以前よりも減ったということ。
子宝に恵まれた、おかげで彼女が出来た、等。
とにかく様々な理由で、と言うよりも最早良かったことは全てと言って良いほどに聖女様のおかげになっているらしい。
森が出来てから不幸が減った、とまで言われている。
「関係ないものまでお前のおかげになってるな」
「呪いに罹る人が減ったってのは流石に信じられませんけど……」
そう。特に話題になっていることは、呪いの発生率が下がったということ。
森の出現と同時に、新たに呪いに罹る者が全体の1%から0.4%に減った、とある。
もちろん、全ては自己申告。
世界全体で2%程と言われているこの呪いに罹った者の多くは、これを他人には言えない。
「地域差があるとも聞くな。何故か狛の村は俺を除いて今まで0だ」
「私の町も私以外は罹った人いないんですよね。皆、その、死んじゃいましたし」
少なくともここ10年の間には、と補足を付けて言う。
旅をした結果、呪いは罹りやすい地域と罹りにくい地域とあるらしい。
しかしそれも、数年の周期で変化していくようで、ここに住めば安全、ということもない。
それが、たまたまサニィがここを訪れたのと重なっただけでは、と推測する。
「まあ、私が呪いを消すときには世界全体をやるので、これを上回ってしまいますけど」
プランはもう決まっている。
その方法ならば、確実に成功するだろう。
だからこそ、たまたま減っている呪いの患者数を気にしても仕方がないのだが……。
「呪いに罹ってる人、なんとか探せないかなぁ」
「そんなに分かりにくいものなのか?」
「はい。陰のマナがまとわりついてるとかならすぐなんですけど、そうではないので分かりにくいんです。陰のマナは関係してるんですけど、空気中にあるのと全く変わりませんし。なんとかいうか、世界の意志ってあるじゃないですか。あれが存在に語りかけてる感じなんです。お前は死なない、お前は幸せになる、お前はあと何日で死ぬ、みたいなことを」
それがサニィが魔王化した時に魔王から得た知識だった。
「そりゃまた厄介なものだな……」
シンプルだからこそ、魔王を下回る者には絶対に消せない。
サニィはそう言う。
「私もまだ魔王に勝てないですから、最悪また魔王化する可能性もありますしね」
「その時は必ずまた助けてやる」
「あ、は、はい。あはは、なんか不意打ちでした」
頬を軽く染めながら、サニィは杖を床に軽くカツカツと打ち付ける。
「皆、大丈夫だからね。呪いは必ず解いてあげるから」
そう、何かに語りかける。
「気休めですけど、今、自分で世界の意思が語りかけるって言って思ったんです。私もマナに語りかけたら少しマシになるんじゃないかって」
「なるほどな。どうだ?」
「あはは、分かりませんね」
目立って感じることは、ない。
しかしそれでも、きっとその言葉に救われる人はいるのだろう。
マナに乗ったサニィの言葉に勇気づけられる者は、きっといるのだろう。
少なくとも、レインにはその様に感じられた。
それによって、多くの者の寿命が少しだけ伸びたことを二人は知らぬまま、首都へと向かう。
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