第179話:子ども達の戦い
師匠と弟子二人、先生と生徒二人、六人が初めて同じ地に揃った。
この地に到着した時から既に、サニィの生徒二人は怯えていた。レインには理由は分からなかったが、エリーは直ぐに察したらしい。
「初めまして、師匠の弟子のエリーです。えーと、そんなに怖がらなくても師匠はとっても優しいですよ?」
と挨拶をする。
何を言ってるの?と思ったのが二人、そしてうんうんと頷くのが一人だ。
無論、その一人とはオリヴィアである。
「お久しぶりですわね、お二方。わたくし達のお師匠様はいつも優しく、時に厳しく稽古をつけて下さいますから、大丈夫ですわ」
え? あんたその師匠に腕千切られてたじゃん、ほぼ死んでたじゃん、と絶句する二人をよそに、サニィはレインに声をかけていた。
「ちょっと二人が霊峰でいけないことをしてたので、お仕置きに二人でしごいてあげようと思うんですが、どうですか?」
あ、これは死ぬ。二人の生徒は察する。
サニィ一人なら、望む所。腕試しにはとても心強い、無限に高くそびえる壁だ。
レイン一人なら、死を覚悟すればなんとか。勝つ方法は皆無だとしても、きっとやり過ぎても先生が助けてくれる。
でも、二人が相手だと言われればそれは覚悟するまでもない。ただの死だ。
「大丈夫だよ? 師匠は優しいから」
そんな無邪気な8歳児の言葉と、
「大丈夫ですわ。お二人はわたくし達を愛していますから」
そんな根拠を感じない16歳の言葉。
何故こんなにもレインを信じられるのか分からない二人は、一先ず、心の準備をすることにした。
今日、自分達は死にます。
幸いにも、大好きな人が隣にいます。
本当に尊敬するサニィ先生の手で死ぬなら、まだ悪くはありません。
出来れば、レインさんではなく、サニィ先生が良いです。
心残りがあるとすれば、最後に研究所の食堂のハヤシライスが食べたかったです。
ルーク、エレナ
心の中で、二人は一緒にそう念じて、準備を終えた。
因みにこの瞬間、二人はテレパスの魔法を開発したのだが、それをまだ気づいていない。
「あははははははは」
何やら8歳児が指を指して笑い出すが、その理由も二人にはよく分かっていない。
自分達が手を合わせて祈るポーズをしていることにすら、気づいていない。
指差すエリーを見てオリヴィアが注意しているが、それもどうでも良い。
取り敢えず準備を終えた二人は、目の前でにやりと笑う魔人と、真剣な眼差しで自分達を見据える先生を前に、いつでも魔法が使える様にと構えをとった。
「お、ルークとエレナ。ようやく準備が出来たか」
魔人の様な勇者レインは、そう言う。
聞くに、しばらく準備を待っていたのだという。
エリーとオリヴィアはどんなタイミングで斬りかかっても反撃に移れる様訓練しているが、お前らは隙がありすぎだと。
エリーは能力で敵意や殺意、その他害意には瞬時に気づくし、オリヴィアは常に周囲を把握している。
それに比べてお前たちは、本当に怯えていただけだ、と。
「ご覧の通り、お師匠様はお優しいですわ」
そんなことを言うオリヴィアには、確かにと納得するしかなかった。
魔王が相手では、ほんの一瞬でも気を抜いた者から死んでいく。
そんな中で、修行を決めたにも関わらず”敵”の前で目を閉じて両手を合わせ、祈りを捧げている自分達は、確かに間抜けが過ぎると。
「さて、全員が準備できた所で今回のルールだ。今回、俺とサニィは小指を繋いだ上でこの場を動かずに戦う。俺達の指を離すことが出来ればお前達の勝ちだ。離すまでは何日でも続ける。以上」
オリヴィアの、アルカナウィンドでの修行を見て、分かってはいたつもりだった。
レインの弟子二人は相変わらず元気に返事をしているし、サニィも真面目な顔でそれに頷いている。
しかし、実際にそんな場に立つと、自分達の修行が所詮、子どものお遊びでしかないのだと実感する。
毎日マナスルを登頂していたし、強い魔物が周辺で出たと聞けばすぐに飛んでいった。様々なパターンで研究所の大人数とも戦ってきたし、サニィとの模擬戦もそこそこにやってきた。
しかし、『先生』は、優しすぎる。
今回の淫魔事件で先生はきっと、それを感じたのだろう。
そう、実感する。
「さて、四人とも。今目の前にいるのは魔王だ。かかってこい」
そんな一言と共に、オリヴィアが踏み込む。
いきなり二人の小指狙い。最短最速での稲妻の様な一撃。
茜色の髪の毛の軌跡が、閃光を描くかの様に二人の間に吸い込まれていく。
「うぐっ」
そんな一撃は、瞬時にサニィの横からの衝撃波によって弾き飛ばされる。
弾き飛ばされた瞬間必中の剣は振るわれるが、それは難なくレインに弾かれる。
飛ばされた姫を、エリーは大剣を逆手持ちにすると、その鍔をオリヴィアの方へと差し出す。
レインとの戦いの時にも何度もやったのだろう。その鍔を瞬時に掴むと、一回転の後、もう一度威力を増して二人の方へと振り飛ばす。
今一度の閃光。
「面白い技ですね」
「エリーが考えたんだ。やるだろう」
「そうですね。でも」
そんなことを喋る余裕すら、二人にはある。
オリヴィアが蔦に捕まえられると同時、エリーと共に動き出したのは、エレナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます