第七章:グレーズ王国の魔物事情と
第54話:過去からの被害者
※6/19 51話が52話になっていましたので修正しました。すみません。
「守護神と言われていたあいつが絶望の病に……」
その男は『狛の村』からの知らせに頭を抱えていた。
自分が知る限り最も強い生物、デーモンロードを単独8歳で倒し、13歳の時には軽くそれをあしらった化け物の中の化け物。過去には人外、ここグレーズ王国最強と言われた自分がどれだけ逆立ちしても勝てないと認めた男が、100年以上前に魔王が残した呪いによって死の危機に瀕している。
誰しもが勝てない男も、魔王の呪いには勝てないと言う事実が、男を悩ませていた。
男の肩書きは王国筆頭騎士、グレーズ近衛騎士団団長。
王国最強の騎士にして勇者、国王の側近の一人で友人。
ともかく色々な肩書きがあった。
名前はディエゴ・ルーデンス。勇者としての能力は逸らし、命中するはずの攻撃を回避出来る。最もあの化物にはそれすら読まれるのが笑えてくるが……。
ディエゴが人生で初めて敗北したのが狛の村への訓練に行った時。デーモンロードを8歳で討伐したという少年が居ると聞いて、手合わせを申し出た時だった。
デーモンそのものを相手にするのは全く問題ないが、ロードは別格。狛の村の人間、ディエゴよりは弱いと言え、人外と言える力を持った人間達約70人で挑んで毎回二、三人程の死人が出る化物だ。それを一人で倒した等ということは、冗談だとしか思えなかった。
当時はまだ自分の強さを過信していたディエゴはデーモンロードも頑張ればいけるのでは、等と思っていた。それがそもそもの間違いだったのも気づかずに……。
僅か9歳の少年は自分を滅多打ちにすると、「強いって聞いたけど、うちの村の人たちとあんま変わらないね。デーモンロードの四分の一も行かないくらい」と言い放ったのだ。
それ以来、ディエゴは誰よりも訓練を積んだ。
既に最強だと言われていた。自分を目標にしてくれている部下がいくらでもいた。それが、手も足も出ずに負けたのだ。それは彼にとって許されることではなかった。
負けたことが悔しいわけではない。勝てない相手には勝てない。勝ち続けてきたディエゴはそれを分かっていた。
そんな己の力を過信していたことが何よりも、情けなかった。
それまではどんな敵が襲ってきても、自分さえいれば勝てると思っていたのだ。
しかしその時の敗北で理解した。
もしもドラゴンが自分の国の首都を襲ってきた場合、自分の力では守ることが出来ない。最強と言われながら所詮はその程度だったという事実が自分自身を酷く落胆させたのだ。
その為に、一人でデーモンロードを倒せる力を付けることを誓った。
いつか、その少年の高みへと到達し、確実に国を守るために。
しかし……。
「お前でも魔王には勝てないのかレイン……?」
あの男だけは魔王の残した呪いになど罹らないと思っていた。
かつての魔王討伐は、魔王一人の討伐につき勇者が100人以上も犠牲になったと聞く。
しかしあの化物であれば魔王も倒せるのではと、だがそれはあのレインであっても、例外ではないのだろうか。
「いいや、俺は勝つさ。別にこの呪いは敗北ではない」
「既に呪いに罹った状態からどうやって勝つと言うんだレイン。もう数字が見えているのだろ? と言うより、もうすぐデーモンロードの出現の時期だというのに旅に出るとはお前は本当に自由なってうおおおおおお!?」
「おう、マイケル。俺のライバルを名乗るなら俺を信じていろ」
「お、おじゃまします」
ここは城の内部、ディエゴの執務室。かなり厳重な警備がなされているはずだ。
いや、それよりも今は夜中。23時を回っている。
いやいや、そもそもなんでここにいるのだ。レインは王都に来たことなどなかったはずだ。
ウチの騎士団が誰も伝えに来ずにここに居るという事は侵入してきたと言うことだ。
そして後ろの少女は……。
「おい、色々と突っ込みたいことが多過ぎるが、俺の名前はディエゴだ。ライバルだと認めてくれるならいい加減名前を覚えてくれ……。そして後ろのお嬢さんはリーゼさんの……、あの町は滅びたと……」
「ああ、すまんなマイケル。こいつはそのサニィだ。唯一の生き残り、そして俺と共に旅をしている。強いぞ」
「お、お久しぶりです。レインさんを止められずこんな夜中にすみません」
相変わらず名前を覚えようとしないレインには呆れてしまうが、最初に無礼を働いてしまったのはディエゴの方だった。レインに認められるまではマイケルと呼ばれるのも仕方はないと半ば諦めている。
そして後ろの少女は【雷雨のリーゼ】の一人娘サニィ。
母親のリーゼが宮仕えをしていた頃には随分と世話になったので、娘の顔もよく覚えていた。目元がリーゼそっくりで懐かしさを覚える。
「リーゼさんは、惜しい人を……。しかし君が無事で良かった。夜中だと気にする必要はない。どうせレインはアレだから誰にも止められんさ」
「ありがとうございます。母はきっと無事天国に。レインさんはほんと……アレですよね。あはは」
「お前ら……」
二人の意見は共通していた。互いにレインに振り回された過去を思い出す。
ディエゴもレインに向かって強くなると宣言したその瞬間から、死の山での騎士団の訓練中は毎日毎日滅多打ちにされ続けたのだ。タイミングを問わず目を合わせれば襲われる。当時のレインはそんなアレな存在だった。
二人の被害者はお互いに乾いた笑いを交わす。
そして暫くの世間話をすると、ディエゴは姿勢を正し二人を見据えた。
「レイン、そしてサニィ君、特にレインになるが、国からの依頼をしても構わないか?」
「聞こう」
「はい。私たちの旅は助けることも目的ですから」
「助かる。実は、東の火山地帯の方でイフリートの動きが活発化している。既にいくつかの村が滅ぼされてしまってな……。近々大規模な討伐隊が編成される。狛の村にも応援を頼みたい所なんだがデーモンロードが生まれる時期だと言うことだ。……頼めるか?」
「東か。良いだろう。少し旅の順番が変わるだけだ。なんなら俺とサニィだけでも良い」
「お前なら大丈夫だろうが二人では流石にサニィ君が危険だ」
「私は大丈夫です。私も、呪い持ちですから」
サニィの返事にディエゴは全てを理解した。
レインが居て町が滅ぼされる等有り得ない。そして一人だけの生存者。
食人鬼であるオーガが襲った町で生存者が出ることは有り得ない。
そして5年で死ぬレインが連れていると言う状況。
それらを考えれば、自ずと答えは出るものだった。
「そういうことか……。しかし、二人は認められない。国の問題を冒険者である君達だけに任せることは流石に出来ないからな。俺と数人は連れて行く。戦闘はどうせ俺が何を言ってもお前が殆どやってしまうんだろう?」
ディエゴの発言にサニィはうんうんと頷く。
「お前の中で俺はそういう評価なわけか。だが今回はきっと殆どがサニィだ。こいつはデザートオーク200匹を一撃で倒せる魔法使いだからな」
「は? デザートオーク200匹を一撃?」
戦闘に関しては嘘も誇張もしないレインの発言に、ディエゴはいつの間にか眠っていたのかと頬を思いっきりつねると、痛えと呻いてから唖然とした。
それを見たサニィはもちろん、レインの発言の真偽を疑う時は夢だと勘違いすることに、うん、分かる分かると頷いていた。
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