第30話:熱帯雨林の中の太陽

 「ストライプタイガータモリンとやらは猛獣と言うわけではなかったのか」

 「タマリンですタマリン! 可愛いでしょ? あのしましま虎模様の手乗りサル!」

 「確かにな」


 まあ、サニィの方が可愛いけれど。

 そんな言葉が後ろに付くのだが、口には出さない。二人はようやく楽しみ始めたジャングルを凄まじく満喫していた。

 サニィは色々な生き物を見てテンションが上がりっぱなし。本人も気付かないうちにレインの腕をとってぐいぐいと引っ張りながら眼を輝かせている。

 レインは先ほどから急激にテンションの上がったサニィを眺めているのも楽しいし、旅が目的なだけあって、景色や動物を見るのもそれなりに楽しんでいる。


 「お、あの黒いのは何タンバリンだ?」

 「あーあれはタンバリンじゃなくてドラムですね。どっちも叩くから間違えやすいですよね、ってバカ!!」

 「お、おぉ……」

 「あれはゴリラですよ! と言うよりタンバリンじゃなくてタマリンですし! と言うかゴリラと見間違えるってどんな節穴なんですか!?」


 サニィの突然のノリツッコミに、思わずレインも引いてしまう。

 尤も、サニィ自身はそれに全く気付いては居なかった。動物達がいっぱいで楽しいな。それだけだ。

 今も「ゴリラは凄く優しくて賢いんですよ。でも怖がりだから目を合わせない様にして、屈んでください。ま、そんな事しなくても私が光の屈折と言う新魔法で調整してるから大丈夫なはずですけどね。ほら、胸を叩きましたよ。あれはドラミ――」などと解説している。

 いつの間にやら新魔法を思い付いている辺り、やはり魔法はやる気が直結することも多々ある様だ。

 今は既に1km先まで見えているらしい。

 探知の魔法はいつの間にか透視の様な魔法としてサニィ中に開花していた。

 少々そのテンションの上がりっぷりには面倒くさいものもあるが、「やっぱりここに来て良かったです」そんなことを言うサニィを見ているとレインもそれに付き合ってやろうと思えてくる。


 「じゃああれは何タマリンだ?」

 「あれはタンバリンですね。なんでこんなところにあるのかは知らないですけど、タンバリンです。あ、あそこに魔物が居ます。あれは……タムリンですね」

 「なんだそれ……」


 最早サニィが何を言っているのかよく分からないが、取り敢えずそのタムリンとやらを始末しに向かう。

 そこに居たのは濃紺の肌をしたおっさんの様な魔物だった。

 背丈は150cm程。骨と筋しかない様な見た目だが、木の棒を振り回し襲いかかってくる。何より最大の特徴は、たむりんたむりんという鳴き声だろうか。


 「これは鳴き声がそのまま名前になるっていう珍しいタイプの魔物なんですよ。発音がしっかりしてますからね」

 「なるほど。始末していいか?」

 「私にやらせてください」

 「…………わかった」


 魔物の多くは人型だ。

 タムリンはただの人間の大人と力比べをしても負けるほどに脆弱な魔物。しかし、その濃紺の肌は夜の奇襲に向いており、元々彼らはその様にして狩りをする。木の棒を扱う程度の知能はあるが所詮魔物。害しかなさない存在だ。

 しかし、人型。それに動揺していては今後もずっとレインに守られるだけの存在になってしまう。

 いつか人を守れるように、二度とあんな風に町を滅ぼさせることなんてさせないように。

 その為の初戦闘として、サニィはこのタムリンを選んだ。

 せっかく可愛い動物たちに癒されていたのに、名前だけは可愛い振りをして人々を騙す邪悪な存在。サニィはそんな八つ当たりに近い思いを胸に、タムリンに向かって蔦の牢を展開した。

 瞬時に地面から蔦が生え、タムリンの足を絡みとっていく。それを必死に振り払おうと木の棒を振り回すが、その木の棒からも蔦は生え始め、腕と足を中心に絡みとっていく。

 やはり殺生には抵抗がある為レインにやるほどの勢いでそれを展開することは出来ないが、長く苦しめるのもまた酷いことだと理解していた。一通り身動きが取れない状態にすると、サニィはその杖を逆さに構え、タムリンを切り裂いた。


 「う、おえぇえええええ」サニィは初めての魔物殺害に、思わずこみ上げてきてしまう。

 「よくやった」その背をレインはさするが、やはり彼女は今まで実感を持っていなかったのだ。それを初めて魔物を殺したことで、実感してしまった。胃の中のものを全て戻してしまったサニィを見て、やはり自分が全てやるべきだったと後悔する。

 しかし、サニィはそこまで弱くはなかった。

 「ぅ……大丈夫です。ごめんなさいお見苦しいところを」

 「無理をするな。俺ですら相当の時間がかかった。お前に出来ないことは俺が出来る。今は頼ってくれていい」

 「ありがとうございます。でも、一度出来たってことは、出来るってことです」


 サニィの言葉は嘘ではなかった。

 その後も2度、タムリンが出てきた。それをレインが始末しようとすると、サニィは大丈夫だと言ってレインを静止すると、素早く倒す。その心の動きを見てみるものの、最初の様な動揺は殆どない。

 サニィは心の切り替えが早い。

 その計3回の戦闘を終えると、自分達から姿を見せたフォレストウルフに頬を緩ませ始める。

 レインが居る場合、野生動物は自分から姿を見せることはまずないのだが、珍しい。

 サニィはそれを見ると駆け出し、その群れに混ざりわさわさとし始める。

 (あの様子なら本当に大丈夫か)

 そう考え、レインもその群れの方に向かうと、オオカミ達はキャンキャンと叫びながら尻尾を股の間に巻きながら逃げていった。


 「……」

 「いや、あの、すまんな」

 「いえ、怒ってはないです。ちょっとレインさん可哀想と思って……」

 「そっちか。それなら仕方ないだろう」


 「いつかレインさんが動物達と触れ合える魔法も作ってみせます。可哀想ですから」そんなことを言いながら、サニィは再び動物を探し始めた。

 何やら方向性がおかしい気がしないでもないが、ジャングルに来たことは正解だった。

 サニィはそこまで落ち込むこともなく、動物を見てテンションを上げている。

 ほんの少しだけの無理も見えるが、それはきっとカバー出来る範囲だろう。

 そんなことを思いながら、本日も日は暮れ、キャンプを開始する。

 その日の食事はマルタガニ。獲れたての新鮮なカニの肉は、やはり極上の美味さだった。


 「それじゃ、散歩に行きますよ、レインさん。夜行性の動物の方が多いくらいなんですから!」


 そんなことを言いながら青年の腕を引っ張るサニィの瞳は、昼と同様に輝いていた。


  残り【1809→1807日】

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