第三章:少女の夢の第一歩
第19話:真昼の侵入者は何もしない
「わー、なかなか大きい街ですねぇー」
「ここが南の首都って言われる街か、なんだっけ」
「サウザンソーサリスですね。多くの魔法使いが住むことから千の魔女が住まう街とも言われています」
「ダジャレか」「ええ」
翌日昼前、二人はジャングルの手前にある街に到着した。
彼らが住む国の中でもとりわけ多くの魔法使いが住む街として有名なここ【サウザンソーサリス】は、近くに魔法使いの修行に持ってこいのジャングルがあることもあり、非常に活気がある。
人口は約30万人。
美しい円形の白い街で、各地に水路が流れており、非常に清潔な佇まいだ。
建物は多くが大理石。何やら、ジャングルに住む巨大なカタツムリの殻から大理石を生み出す魔法は見た目も良いことから、ここにある3つの魔法学校で昔から教えられているらしい。それを使った建物は非常に重厚感が有る。しかし、カタツムリの殻に含まれる炭酸カルシウムを分離して大理石に変化させていると言うことは誰も知らない。たまたま発見された魔法だと言うことだ。
3つの魔法学校では、優秀な成績を修めたものは王都の魔法師団等への推薦状も書かれることもあり、常に競い合っている。サニィの母もここの街の魔法学校の一つを出ている。
「それじゃあ、そこの学校に道場破りを仕掛けるか」
「いや、なんでそうなるんですか!」
「道場破りをすればお前のレベルも分かるというものだろう?」
「そうだとしてもその発想はおかしいですから!」
いつも考えているのかいないのか全く分からないとサニィは呆れた様にレインを叱る。ただ、やはり母親の出た学校には非常に興味があるので、行ってみることにする。
中央通りから東へ進み、北を12時に見立てると4時の方角にある丘に佇んでいるのがその学校だ。
【ルーカス魔法学校】
ここは主に卒業後、戦闘系魔法によって生活していくための学校で、サニィの母親もここを出た後、王宮で王女の侍女兼護衛として活躍していた。推薦状を書かれ、たまたま護衛を募集していた王女がその凛とした佇まいに一目惚れしたのがきっかけだそう。
それはともかく、その門は開け放たれていた。
戦闘を重視した魔法の学校。曲者が侵入するのは自由。ただし、まともに侵入できるのならな。
そんなスタイルの学校らしく、門の隣に丁寧にも【侵入者はどうぞチャイムを押さずにお入りください】と書いてある。
「よし、行こうか」
「まって! まって!」
「【どうぞお入りください】って書いてあるじゃないか」
「ちゃんと読んで!! 侵入なんかしま、ちょ! やめて! やめてえええ!」
注意書きを”しっかりと”読んだレインは堂々と入ろうとするとサニィは止めるが、その腕を引っ張られてずりずりと門を越えていく。サニィは「助けてええええええ!!」と叫んでいるが、一切の効果はない。
丁寧にも叫び声を上げながら侵入した二人は即座に攻撃魔法で歓迎される。
四方八方、嵐やら落雷やら斬撃やら炎。
全く大したことのない攻撃が容赦なく降り注いでくる。素晴らしい歓迎ムードだ。
そしてサニィはその正面に放り出されると、彼女はいつも通りの「ひぃっ」の後に魔法を行使する。
嵐には木を生やし、落雷は軌道を曲げ、斬撃は更に大きい斬撃で打ち消し、炎は水の壁で消す。
その全てをそんな簡単に防ぐと、余りの攻撃の弱さにきょとんとする。
「あれ?」
「お前の母親は相当強かったんだろ? それが2m程の木を10回切ればマナ切れを起こすくらいだ。お前の成長はそれを遥かに上回っていた。言っただろう。オーガ100匹分だと。さて、訂正する為にも一回出るか」
きょとんとしているサニィに向かって次々に飛んでくる魔法を防ぎながらレインはのんびりと彼女の腕を引く。しかし、私、こんなにも強くなってたんだ。ここの魔法学校って、入るだけでも難しいはずなのに。
そんなことを思いながら、ふと気づく。
「あの、レインさん。私たちめちゃくちゃ攻撃されてません?」
「そりゃ、侵入者だからな」
「一回出るか。じゃないでしょ! なんでそんなのんきなんですか!? 侵入者ですよ! 侵入者! 明らかに注意書きを読んでるのも見られてましたよ!!」
「落ち着け。侵入した事実はもう取り消すことなど出来ん。ならば後は誠意を見せるのみだ」
「何を言ってるのか分かりません! 明らかにわざと侵入しといて誠意ってどの口が言ってるんですか!」
そんな言い争いをしている間にも、魔法は次から次へと飛んでくる。「絶対逃がすな! 殺せ!」そんな怒声も聞こえてくる。もう嫌だ……。サニィは憧れの魔法学校でいきなり殺せとまで言われて涙が浮かんでくるが、再び門を越えるとその攻撃はピタリと止んだ。
門の中では、「逃げられたか! 畜生!」「ってかあいつら俺らの魔法を無傷で防ぎやがったな」「逃げないでかかってこいよ!」等言っている。
どうやら、敷地内の侵入者は生死問わず、しかし逃げたら勝ちと言うのがルールらしい。
「どうやら俺達の誠意が届いたようだな」
「あの、さっきからレインさん耳付いてます?」
「ああ、チャイムを鳴らそう」
「ちょっと待ってえええええ!!」
レインがチャイムを鳴らすと、魔法で声が飛んできた。
初老、40代程の女性だろうか。気品の漂う声だが、どこか妖艶な色艶を感じる。
「あら、先ほどの侵入者さん達。何かご用ですか?」
「ああ、ここはこの娘の母親の母校なんだ。体験入学とか出来ないものかと思って」
「良いですよ。侵入しておいて無傷で門を抜けた挙句、そんなこと言う人は初めてですけれど」
「この娘は天才の部類だ。少し見てやって欲しい」
「ええ、構いません。魔法の才能がある人を無下に扱うほど、わたくしたちは心が狭くないですからね。では、お入りください」
そう言われると、二人の胸に青い印が付けられ、注意書きの部分がズズズと横にスライドし、ちょうどすれ違えるかと言うくらいの小さな門が表れる。
どうやら、こちらが正規の入口らしい。
勝手にチャイムを鳴らされて最早魂が抜けかかっているサニィに、レインは事も無げにこう告げる。
「ほら、大丈夫じゃないか」
「…………私がおかしいのでしょうか」
今回ばかりは流石にレインは天然のレベルを超えていると思っていた。もう二度とこの街には入れない。
せっかくのお母さんの出身校に来られたのに……。もう本当に嫌い! 最低男!
そんな風に、思ったのに。なんだこのあっさり感。
思わずいつもの戦闘訓練以上に疲れてぐったりしたサニィの手を、レインは何事も無かったかの様に取ると、今度は先ほどと別の門へと向かう。
そうして二人は、改めてサニィの母親の出身校、【ルーカス魔法学校】の門をくぐるのだった。
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