第90話 散歩と案内

―――――――――――19時33分・・・・・プライベートホーム


レイは興奮するユキシロに落ち着く様に説得し、静かにさせるとクーリアはユキシロについて気になった事を話し始めた――――――


「ユキシロって本当に現実世界にいる人じゃなくて・・・・AIなんだよね?」

「そうだよ、アタイは紛れもなくこの世界から生まれた存在・・・でも、こうして考えたり心のようなモノを実感できる・・・だから現実に体が無くてもアタイはここで楽しくできたらそれでいい――――――」

「クーリアが失礼な事を言った謝ろう・・・・だが、私も失礼ながら言わせてもらうと・・・こうして接していると本当に生きている人が操作していると思わせられる所があるな。

そして、ムクロが認めたんだ・・・・私たちにとってもユキシロは大切な仲間になったんだ・・・

これから、よろしく頼む。」

ミストがそう言って手を出すとユキシロはそっと握手を交わしにこッと笑い合うと、ホームのドアが開きアヤカとエリがやって来た。

そして、この状況等の話をソファーに座りながら話伝えると・・・・・


「このユキシロって元モブなの!?信じられない・・・・こんな事があるなんて・・・」

「私も驚きです、ですが名前やステータスを見ても分かる通り紛れもなくNPC系のカラーと表示がされてる・・・・しかもスキルで人になる事が可能とは・・・グロリアには後どれくらいの不思議が詰まっているのか想像もつかないわ――――――」

エリとアヤカはまじまじとユキシロを見つめながらユキシロがエヘヘと照れていた。

見た目は普通の女性型アバターにしか見えないのだが、ここまで完成度が高いアバターがNPCと言う事に普通のプレイヤーなら驚くと言えば驚くと言えなくもなかった。


「で、ムクロ・・・私達に内緒でレイと2人で狩りハントしてたって本当なの?」

「あ、あぁ・・・それは事実だ・・・俺以外のメンバーが女子会で出払ってて暇だったからレイと外に気晴らしにでもと思ってだな・・・・」

「そのことでしたら私にもご主人様と同じ罪をこの身で受けましょう。

私も止められたはずのにも関わらず止めなかった罪は重いはず・・・・

ならば、ご主人様と同罪で私は構いません。」

「それなら、アタイも一緒じゃぞ!だって主殿やレイレイがあそこに来なかったらアタイ達は出会えてなかったし・・・・それに、3人だと苦しみも痛みも全て三等分じゃ!」

「そうだね、でも・・・三等分じゃなくて四等分だよ?

私も最後はムクロ君を助けに行っちゃったし・・・・ね?」

俺達4人はエリの前で正座すると、エリもため息交じりでハァ~と一呼吸し・・・今回の件はという事で不問となり・・・・俺達もホッと胸をなでおろした。


「主殿!主殿ぉ!!アタイ、散歩に行きたいのじゃ!」

「さすが、狼・・・・散歩は必須か・・・よし・・・少し外は暗いけど散歩に行くか。

と言うわけだ・・・・が・・・どうした・・・何で全員そんな怖い顔してるんだ?」

「ご主人様、こんな暗がりな街を1人と1匹っきりで散歩は危ないので私もご一緒致します。

拒否権は御座いません・・・・あ~そう言えばお茶のストックが切れてました(棒読み)。」

「あ、レイ!ずる~い!私もムクロっちと散歩したい!!!

ってか勝手に付いて行っちゃうもんね!!」

「ムム、この流れ・・・乗らないといけない気が・・・仕方ない私も仕方なく・・・仕方なく我が弟が悪漢に襲われないように見守るのもまた私の使命・・・さぁさぁ仕方なく付いて行ってやろう!うん!」

「ムクロのグループっていつもこうなの?

私も新参者であんまりここの流れが分かってないけど・・・

よし、これは私も付いて行ってみようかな!」

「はぁ~ムクロはまた勝手な事を・・・・でもまぁ皆で夜の散歩も悪くないイベントでしょう。

両手両足全てに華とはこの事でしょうか。」

「あはは・・・それじゃ・・・私は残ろうかな・・・ユキシロの衣装を仕上げないといけないし。」

そう言うとユリハは作業部屋にそそくさと移動してしまった・・・・その光景を見ると、皆は俺の方を見て何かを訴えるかのように無言で見ていた・・・・


「わかってる、わかってるからその無言で見るのは止めてくれ・・・・」

俺はユリハの向かった部屋の前まで行き・・・ノックをした。


「反応が無い?

おい、ユリハ~いないのか?」

「な、ム・・・ムクロ君!?

私、その・・・着替え中なんだけどなぁ・・・・」

ユリハの黒いトーンでの発言に俺は恐怖を感じ部屋から出ようとすると・・・ユリハの手の方が早く、俺は手を掴まれ部屋から出る事が出来なかった。


「いいから、そこで何も言わずに待ってて・・・直ぐに終わらせるから。」

ユリハはシュルシュルと服を着替え始め、ユリハがトントンと頭を叩くと俺は目を開くと・・・・そこには前回着ていたように白を基調とした衣装を身にまとい俺の前に立っていた。


「どう・・・・かな?

新しくこのアバターに合うように工夫して仕立てて見たんだけど・・・・」

「うん、凄く似合ってるよ・・・・そのキツネ耳との相性が良い色使いとデザイン・・・

その・・・本当によく似合ってる。」

俺が褒めるとユリハはにっこりとして笑いながらありがとうと返し、ユキシロの服は散歩から帰ってきてから作成する事にして散歩に行くこととなった。


「ユキシロ・・・その・・・ごめんね・・・衣装は後で必ず作るから・・・・」

「大丈夫じゃ~アタイは待つ事にはなれているからのォ~

気にしなくていいのじゃ!

それにしても・・・ユリハのその衣装は中々に華があっていいのぅ~」

「うむ、ユリハの仕立てた衣服はどれもいいデザインばかりだ・・・・本当に思いを込めて作っているのが手に取るように分かると言うモノだな!」

「そうそう、あたし達の着てるこの服もユリハが作ってくれたんだよね~」

「へぇ~ユリハって器用なんだね~

今度、私もチャレンジしてみようかな。」

「さぁ、ユリハも行く事になったのなら・・・ユキシロの散歩に行きましょうか。」

「そうですね、では・・・ユキシロ、狼モードになってください。」

ユキシロは狼の姿になるとレイはユキシロの首に首輪をつけリードを俺に手渡した。


「レイ、このリードどこで手に入れたんだ?」

「これは私よ―――――いえ、これはこういう時の為にショップで買っておきました。」

「本当にモフモフだ!!!」

「だね~気持ちいい~~」

「ほう・・・これはいい癒しと言うモノだな。

エリも触ってみないか?」

「そ、そうですね・・・何事も体験・・・あ、モフモフ・・・・」

「ユキシロもすごく気持ちよさそうにしてるね・・・・

こうやってメンバーが増えていくと賑やかで・・・なんか家族みたいだね。」

「そうだな・・・仲間であり家族ってヤツだな。

―――――――よし準備できたし・・・それじゃ散歩に出発だ。」

皆はユキシロを撫でまわし終わると、やっとユキシロが望んでいた散歩が始まった。


「ユキシロ、ここはアイテム屋だ・・・買い出しを頼む時はこの商店街に来ると大体のアイテムが揃うから覚えておくといいぞ。」

「ほほぅ~プレイヤーが沢山いるの~さすが始まりの都と言うだけのことはあるのぉ~」

「厳密には、始まりの都・・・日本支部領域・・・つまり日本のプレイヤーがココに集まると言う事です・・・・他国にもそれぞれ支部領域があり各国はそれぞれ自国の領域内で生活を行っているのです。」

「そうそう、そして・・・その領域の外・・・フリーフィールドやダンジョンだと世界中のプレイヤーと一緒に言語の枠や世界の壁を越えたプレイができるんだよ!」

「そう考えるとグロリアってすごいゲームだよねぇ~

今じゃトップシェアゲームだし。」

「そうだな、このゲームが下位の順位になったのを今まで見た事が無いくらいだな。」

「そして、このゲームを唯一クリアしたプレイヤーがここにいるムクロと言う事も、極々一部のプレイヤーにしか知られていない情報・・・・」

ユキシロが冗談を言われたと思いながら俺の方を見ると、俺の表情から嘘や冗談ではない事を知ると――――――


「あはっはははは!そうかそうか!そりゃ・・・他のプレイヤーと違うわけよのぉ~

こんなにも頼もしい主殿ならば向かう先ならば死の淵にでも一緒についていくぞえ。」

「そんな物騒な所にはできれば行きたくはないけどな。

っと・・・・やっと到着か、ユキシロ・・・・ここが公園だ。」

「へぇ~ムクロっちってこういう所によく来るの?

まさか1人で来るって事はないと思うけど・・・まさか誰かと・・・・

なんてないよね?」

「ムクロ、どうしてそっぽを向く?

この私の眼を見てハッキリと答えて見るが良い!さぁ!!」

「また荒れそうな雰囲気・・・・これ止めなくて大丈夫?」

「あはは・・・いつもの事だから気にしないで・・・・

でも、私と一緒に来た事ある公園じゃないから・・・私も少し気になるなぁ~」

「ムクロとよく来た公園・・・懐かしい・・・

そう言えば昔、2人で公園ココのベンチに座って一緒にサンドイッチを食べたりした事があったわね・・・・・」

エリは遠い目をしながら過去の映像を思い出すかのように公園のベンチを眺めていた。

エリとの思い出の地と知ると、他の3人も冷静になり・・・そう言う事かと納得しユキシロと公園で遊び始めた。


「ご主人様・・・このボールをお使いください。」

「コレって犬とかに取りに行かせるアレ?」

レイはコクリと頷き、俺はユキシロにボールを見せると・・・ユキシロはボールが気になり俺の手に持ったボールだけに集中していた――――――


「それッ!!」

「―――――あふん!!」

俺がボールを投げると、ユキシロは空中でボールを咥え俺の元まで持ってきた。


「主殿、ほれ!早く投げておくれ!

さぁ早く!!!」

「よしよし、それじゃいくぞ!!!それッ!!!」

このボールのやり取りを見ていると、クーリアやミスト達がやってみたいと言い・・・交代しながらボールを投げてユキシロと遊ぶと、少し休憩と芝生に寝転がると俺の上にユキシロがダイブして来た――――――――


――――――――――19時50分・・・・公園

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る