20 地下侵攻
地下部隊の突入前に、ハルスから提供された魔法道具があった。それを見たグラムとテトラが叫ぶ。
「真似されたぞ!」
「特許料払えこのやろー!」
突然の抗議にここにまで来たハルス側の人間が困惑していた。落ち着いてとカルラが二人の手綱を握る。一方でケビンとガランはそのパクリと叫ばれた魔法道具を掴み眺める。見た目は筒だ。大して重くも無く、見た目からすると下腕部にベルトで括り付けるような使い方を想定しているのか。長さは肘を少し超えるくらい。試しに取り付けて腕を振り回してみるが然程気にならない。それが両手分。
「で、これは何なんだ?」
「は、はい。アストナード卿が開発した対魔導機士用の魔法道具、らしいです」
「ほう」
こんな小さいのに魔導機士へと通用する様な攻撃が可能なのかとケビンは驚く。そもそも歩兵がそんな威力のある魔法道具を持てるというのが既に驚きだった。そういえば、とケビンは遠い記憶を思い出す。今しがた騒いでいた二人、エルロンドでの開発時に試作機を壊しかねない魔法を放っていた気がする。
「やっぱりそうだ。これ、僕の作った魔法とほとんど一緒だぞ!」
「この辺の加速術式とかテトラの作った魔法じゃん!」
とほぼ同時に叫んで。互いに睨み合う。何寝言言ってんだ。自分のだっての、というのがその視線に込められたメッセージだろうか。一先ずそのやり取りでケビンは自分の記憶が正しかった事が証明された。偶々、ハーレイが同じ魔法を考え付いたというより、むしろ誰かからその知識を得たと考えた方が自然だろう。
「パクリっていうかさ、お前らが教えたんじゃなければカルロスが口滑らせたんじゃねーの?」
ガランの言葉はやはりケビンの推測と同じ物だった。ケビンも無言で頷く。カルラもそんな気はしていたのだが、二人の剣幕に言い出せずにいた。残念なことに、その推測は正しい。機龍の切札であるエーテライト弾頭。大本の発射機構を考案したのはグラムとテトラだった。その時の会話の流れでカルロスはケビンが想起した試作機開発時に二人が打ち出した魔法について話していたのだ。
そしてやはりと言うべきか。ゆらりと立ち上がってグラムとテトラが地の底から響くような声を出す。
「カルロスめ……日頃から利権だ何だと言いながら……」
「本人が漏らしてるんじゃないか! ばかー!」
その叫びは流石にカルロスにまでは届かない。一頻り叫んだところでアルが一つを手に取る。
「携行型砲撃魔法道具とでもいうべきですかね。一発限りの使い捨ての様ですが、これだけの威力の魔法、長耳族でも即座に撃てるのは少数でしょう。全員持って行って損は無いと思いますよ?」
まあ私たちは全員即座に撃てる側なので要らないですが、と言っていたのでハルスから提供されたそれは全て第三十二分隊が装備する事になった。
「この話はまだ終わっていないからな!」
「次は法廷で会おう!」
とグラムとテトラは捨て台詞を残した。そしてずっと黙っていたライラは。
「……これ十本くらい束ねて一気に撃ってみたいなー」
と物騒な事を呟いていた。それ程の数が無かったのは幸いとしか言いようがない。
「それではこちらです。足元に気を付けて」
そしていよいよ第三十二分隊の六名と、アル、長耳族の兵士が三人の計十人が地下へと潜る。
「アルさんたちはもっと人数連れてこれなかったのかー?」
ライラのその問いかけにアルは微苦笑を浮かべた。
「残念ながらこの魔力濃度の中を進めるのは長耳族でも少数です。後は貴方方の様な存在と、外気を吸わない様に密閉した物で口を覆う。それから有獣族なら魔力酔いを強引に跳ね除けて進めるかもしれませんね……つまりはここにいるメンバーが今すぐに用意できる全戦力なのですよ」
教師然とした態度でそう説明されたライラはほえーと気の抜けた返事を返した。ぶっちゃけ本人に影響が無かったので余り深く考えていなかったのである。
「それで例の地下に会った魔法陣と言うのはどれくらいのサイズで?」
「かなり広いですよ。地下にあれだけの空間……一から作った訳では無く、元々あった空間を利用したのでしょうね。或いは、ここも遺跡の一つなのかもしれません」
入り口が完全に封鎖されていたから気付かれなかっただけで、その可能性は大いにあり得た。そもそも積極的に探していたアルバトロス領内の物を除けば遺跡何て物は大概が偶然発見される物だったのだから。
「手付かずの遺跡ですか……カルロス辺りが居たら興奮しそうですが」
「ええ、ですから上では言いませんでした」
こっちに来るなどと言われても困りますからと言う辺り、流石師匠と感嘆するしかない。
「……そろそろです。邪神が守護役を配置しているかもしれません。気を付けてください」
最も警戒していたのは魔獣だ。邪神が生み出している訳では無いが、意図的に魔力を歪めて生まれやすくすることは出来る。そうして地下空間に魔獣を満ちさせているという可能性は有った。が、予想に反して飛び込んだ空洞には生物の気配はない。
「何て広さ……」
初めて入り込んだアル以外の九人はその広さに戦慄した。入口が封鎖されていたので不可能だったが、この広さは魔導機士が入り込めるほどだ。その広大且つ高い天井を持つ空間。その地面にびっしりと描かれた魔法陣の精緻さ。グラムが呻く。
「凄まじく細かい術式だな」
「細かいっていうか偏執的っていうか……これ半分以上を潰さない限り機能を維持する様な奴だよ。きっと」
テトラがその全体像を見て半ば直感でそう言った。通常の魔法陣はどこか一か所でも欠けたらその時点で効力を失うが、この魔法陣は言ってしまえばあちこちに機能が分散されており、その数が半分になるまでは相互に補完し合って機能を維持するようになっている。予備が多いと言えばいいのか。
「この広さの半分、だと」
「はーそりゃ骨が折れそうだな」
ケビンとガランが、単純な手順の多さに辟易とした表情を浮かべる。その中でアルだけが険しい表情を崩さない。
「……おかしい、何故何も居ない」
間違いなく、破壊を妨害するための何かが居る筈だった。だというのにここにはその気配はない。その奇妙な静けさ。それは初めてここを訪れた時と同じで――。
「避けなさい!」
予感に突き動かされるようにアルは咄嗟に叫んだ。その声に反応できたのは八人。ただ一人長耳族の青年だけ足元の魔法陣に気を取られて動き出しが遅れた。自分に迫る魔法の影。咄嗟に防御の為の魔法を展開する。長耳族の高速展開。人間族の平均的な位階の魔法ならば軽々と弾けるそれが容易く貫通された。
『何だ、殺したつもりだったけど生きていたんだね。生き汚さは生まれつきかい?』
その声はここにいる筈の無い存在。想定では地上に居る筈だった。
「何故、貴様がここにいる、邪神!」
『嫌だなあ。僕は名乗っただろう、フィリウスと』
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