14 第三十二分隊の再戦
中型魔獣を中心としたアンデットの群れ。斬れども斬れども数の減らない軍勢。
更には攻勢に緩急を付ける。陣形の薄い個所を狙って突撃してくるなどの練達とは言えないが、知恵のある行動。それらにアルバトロス軍は翻弄されていた。
その光景を後ろから眺めている姿がある。
「……押されているな」
現状アンデット側に優勢に進んでいる戦況を見てそう呟いたのはケビンだ。この場に居ないカルロスを除いた旧第三十二分隊を取りまとめるのは変わらず彼だった。
「そうか? 結構押している様に見えるけど」
「トーマス。数を考えなーって。こっちは向こうの三十倍近くいんだべ?」
トーマスの楽観にガランがそう諭す。魔獣の総数は四千近い。対して現在展開しているアルバトロス軍の魔導機士は百と少しだ。その事を理解したトーマスが手を打つ。カルロスが同じ数の魔獣の群れを用意するのが不可能である以上、今回で決着を付けないといけない。そう考えると余裕は無かった。
「やべえじゃん!」
「今頃気付いたのか、スレイ……この脳筋ですら気付いていたというのに」
「うっし。アッシャー。ちょっとそこまで行こうぜ。大丈夫だ直ぐに終わる」
拳を握りしめながら怒りを露わにするガランにグラムは鼻で笑った。だから脳筋なんだと言わんばかりである。その二人の意識をケビンは咳払い一つで引き戻す。
「取り敢えず予定通りにやるぞ。ハーセン。そっち側は任せたぞ」
「うん。私一人でテトラちゃんとライラちゃんを引っ張っていくのは不安だけど」
「大丈夫だ。そっちには玩具(グラム)もいる」
「なあ君たち。何だか非常に不本意な扱いをしていないかな?」
問題児二人を纏める大役を任されたカルラと、その二人への生贄に選ばれたグラムの表情は似たり寄ったりだ。
「いやいや、心外だなー。ねえ、てとてと」
「全くだよー。らいらい。私らをそんな問題児みたいに」
「君たちが問題児じゃないなら世の中は平和だな」
そう言った瞬間グラムの身体が宙を舞った。爆炎がその後を追っていく。
「口には気を付けなよべいべー」
「テトラたちに惚れたら火傷するゼ」
「物理的に燃やすんじゃない! ああもう! 魔力を無駄遣いして!」
「……すまん。頼むぞハーセン」
早速問題児振りを発揮する二人にケビンは処置なしと首を振りながらそうカルラに後を託す。カルラは既に泣きそうである。
努めてそこから目を逸らしてケビンは二人に向き直る。
「それじゃあ行くぞ」
「おう」
「いっちょ、あいつらにかましてやろうぜ」
もみくちゃになっている三人に一生懸命に声を掛けながら手に触れた袖を引っ張る。
「み、みんなも行きますよ!」
「んーかるかるはかわいいなあ」
そんな健気なカルラにライラが抱き着いて一抜けし、そこにお互いの頬を引っ張りながらライラとグラムが続いた。
「全く。君みたいな大雑把女とまた合体魔法をするなんて……」
「こんな頭でっかちなアッシャーと合体魔法だなんて……」
同じような事を言いながら二人は一つの魔法を組み上げていく。土を圧し固めて、細く鋭い針を形成していく。創法をグラムが、射法をテトラが担当した対魔導機士用の合体魔法。操縦席正面の装甲に命中させられれば貫通も狙える一発だ。エルヴァートのクロスボウは実の所、第三十二工房時代に二人が試験中に撃ったこの魔法が元になっている。十分な強度のある物体を十分な速度で放てば魔導機士を打倒しえる。その構想から生まれたのだ。
問題は、エフェメロプテラがそうであったように魔導機士はその発射を見てからでも回避が可能である点だ。だからそのための下準備を整えるのがカルラとライラの役目になる。無論腕力では無い。元錬金科の彼女たちが用意したのはこの日の為に用意した対新式魔導機士用の魔法道具だ。
「よし、それじゃあかるかる。景気よく行こうか!」
「うん、ライラちゃん。頑張ろう!」
二人で気合いを込めながら用意した投擲器で、球状に纏めた魔法道具を打ち出す。大きな放物線を描いた球体は緩やかに落下を始め、魔導機士の頭部の辺りで弾けた。
その至近にいた魔導機士達には溜まった物では無い。
「な、何だ!? 投影画面が真っ暗に!」
対エーテライトアイ用の魔法道具。その構造を熟知しているカルロスの知識を元にカルラとライラが考案したエーテライトアイをただのエーテライトに作り変えてしまう創法の魔法道具だ。
元々エーテライトアイは特定魔獣の水晶体であり、かなりギリギリのバランスで成り立っている物質だ。それを崩すのは容易い。そしてそれが無ければ新式の魔導機士など動く棺桶と大差ない。視界が皆無で戦えるわけがないのだ。
そうして視界を奪われて右往左往する機体目掛けてグラムとテトラの合体魔法――『スティングレイ』が襲う。一撃で脚部を破壊されたアイゼントルーパーは倒れ伏す。その背中を無数の魔獣が襲い、あっと言う間に姿が掻き消えた。
アンデットと化した魔獣が操縦者を、魔導機士を襲うのはカルロスの指示だ。かつてのグレイウルフの様に、リビングデッドには込められた魔力の分だけ活動時間が伸びる。そしてそれは補充できる。例えばエーテライトその物。或いは生きた人間。
無関係の人間を巻き込むことは良しとせずとも、この敵対した相手は例外である。そこがカルロスに許せる限界だった。
「なーいす。てとてと」
「ふっふふ。もっと褒めたまえ」
「おい。次行くぞ」
「全くもー……早い男は嫌われるよーアッシャー」
歩兵として魔導機士を撃破した労いを存分に受けながらテトラはグラムに言い返す。口ではそう言いながらテトラは二発目を用意し始める。カルラももう一度魔法道具を投射し――。
「させん!」
飛来した雷が一撃でその魔法道具を焼き払った。タイミングを合わせていた『スティングレイ』を大鎌の一閃で叩き落した。そんな絶技を見せつけたのはヘズンが駆るヴィンラードだ。
「うげ」
「大型魔獣二体を相手にしながらこっちの対処まで……化け物か」
テトラとグラムの悪態も空しい。
「エルヴァート部隊! あそこに人影がある! 捕縛しろ! 殺しても構わん!」
「さらにげげ」
「み、見つかっちゃった!」
後衛四人は慌てふためく。流石に予想よりも早かった。古式に今回の魔法道具が効果が無いとはいえ、この僅かな時間でこちらの居場所が把握されるとは思っていなかった。大型魔獣と交戦しながらこの観察眼。どれだけ視野が広いのかと驚くほかない。
「悪いが……彼らを相手にしたければ俺たちを突破して貰おうか」
そんな彼らを守る様に、三つの影が立ち塞がった。
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