俺と彼女はこうして知り合った03
「でも、何故。何の理由があって、私に声をかけたの??」
その疑問は、確かに誰でも抱くものだろう。
俺だって、逆に声をかけられたら疑問に思うはず。いや、まぁ……絶対ないんだけどさ……。
しかし、困った。その問に対しては「違和感を感じた」と答えるのが俺としてはベスト。だけれど、聞く側としては、意味がわからないものでしかない。
返答に困り、無言が続く中。二人のアスファルトを蹴る音のみが“バラバラ”に音を奏でる。
──でも、せっかく言葉を投げかけてくれてるんだから、答えなきゃ。
「えっと、蒼葉を見た時に違和感を感じたんだ」
「……え?」
やってしまった。焦りと焦りと焦りとパセリで……ってアホか。
思っていた事をそのまま、口に出してしまった。
蒼葉優縁は、手に取ったようにわかり易く立ち止まり、唖然とした表情を遠い目で俺を写し作り上げた。
この後、どんな展開が待ち構えているのかは、嫌でもわかってしまう。
嫌な展開のみ、悟れる俺の能力まじいらねぇ……。
「今、違和感を感じるって長門君。言った?」
「……あれ? 」
「何か、言っちゃまずい事を言ったかしら、私」
「いや、言ってない! ごめんごめん」
まずい事ではなく、てっきり「何意味わからないこと言っているの??」とか、軽く罵られ。激しく傷つく自分をイメージしていた為。話に食いついてくる蒼葉優縁の言動は俺にとっては凄いことだ。
しかし、これなら俺が思う事を言っても大丈夫な気がした。だから、俺は自分の感じる何かをありのまま伝えよう。
「……そうなんだ。違和感、そして嫌な予感。昔から、理由は分からないけれど。そう言ったものを感じる事がある。結果、それがどう繋がってくるのか。そればかりは、分からないけれど。それが、今回。蒼葉から感じたんだ」
「……そう。それは、今回じゃなくて……『今回も』じゃないのかしら……」
「──ん? 今、何て??」
「何でもないわ。そんな、非現実的な事言って、貴方は予言者にもなったつもりかしら?? アニオタも、ここまで来ると痛々しいわね」
……ぐふっ。
さっきまでの、食いつきは何処吹く風。まるで手のひらを返したように態度を一変させるなんて……。
本能寺が、燃えておりますぞ……。
「取り敢えず、早く帰りましょう」
「……え? ぁ、ぁあ。帰ろう」
「長門君は、古傷が結構あるのね、腕とか」
腕捲りをしていた為か。それとも、無言が続く中、耐えられなかったのか。暫く歩いた後に、風のようにさり気なく蒼葉優縁は言葉を揺らした。
「ん? ぁあ、この、傷は良く覚えてないんだけど。多分、小さい時に付いた跡だと思うんだよな。俺、結構、外遊びが好きで。怪我して帰るなんてざらにあったんだよね」
──小学校までの話だけどな……。あの頃は、アニメのヒーローに憧れて居たものだ。と、今思えば、俺がアニメ好きなのはかなり前からだったという事に気が付き。何気に、感動をしたりした。だって俺、むっちゃ一途じゃん。
まぁ、嫁は両手じゃ数え切れない程居るけどさ(二次元に限る……)
「そうなのね。今は、そう言った怪我とかはないの??」
「今は、もう。外遊びよりも、勉強勉強でさ? なかなかね。まぁ、自然は好きなんだけどさっ!」
──友達が、居ないだけですけどね……。何ですか、この子は無意識に人の傷口に唐辛子を擦り込むスキルとかあるんですか。
「そう、それは何よりね」
横目で見た、蒼葉優縁は遠くにある高く青々しい空を眺め、見つめながら。何かを見据えているのか。憂いたような表情をしながら、俺の解に対して反応を示した。
その、何処と無く弱い声は、蒼葉優縁の凛とした音を寂しく際立たせる。
俺は、その優しく寂しげな声に耳を傾けつつ。船の汽笛がなる大海原を見渡していた。
まるで、その言葉の重みから、逃げるかのように。
一人で、歩けば十五分も有ればとっくに家について居るが。歩幅が狭い女性と歩いてるとなれば、そのようにはいかない。
──って、アレ? コレって俗に言うデートってやつじゃね? いやいや。傍から見たらだよ?? 分かってるよ、デートじゃない事ぐらい。でも、傍からみたらさ? あ、ヤバイ。違和感よりも高揚感が……。
「──長門君。何一人で、ソワソワしている訳? だから、気持ち悪いわよ。本当に……」
「……え? あ、ごんなさい……」
「長門君は、不思議な人ね。悪い意味で」
──悪い意味でってなんですかね。一言余計という言葉を知らないのですかね。彼女は。
「それは、どー言う意味だよ……。って、俺は、その突き当たりを左に下った場所だから」
「私は、右。ともあれ、ありがとう。少なからず、多少は楽しいと思えたわ」
「多少ってなんだよ。多少って。まぁ、また明日っ」
「──ぇえ、また明日」
──って、俺は楽しく話す為に蒼葉優縁と帰ったのか? いいや。違う、違和感の真相を見つける為だろ。
忘れかけていた、自分勝手な使命感を思い出し、背を見せる蒼葉優縁を走り追いかけた。
「そうだ、この感覚。そして、この場所にも感じる違和感……夢でっ!!」
耳障りな程に高いクラクションに立ち止まる彼女を目の前に。俺は、今まで出した事の無い大きい声で、彼女の名前を叫んだ。
そして、一瞬感じた指先から伝わる蒼葉優縁の体温。それを、最後に激しい反動。内側から聞こえる骨が軋む音。
暗くなる視野の中。俺は結局彼女から感じる違和感をわかる事が出来なかった後悔だけを残した。
けれど、何故だか死に対する恐怖よりも。そんな事よりも、人を救えた。と言う達成感で満たされている事に気がつく。
昔憧れていた、あの赤いマントを羽織ったヒーロー。彼のように、俺もまた成れただろうか……。
──そう言えば……こんな、感覚前にも………………。
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