第二十一話 猫をも殺すは
訪問者
「学校始まって早々休校が続くなんて……」
ソファに座った
「そうだねー。……何というか、私の周りでビーストが出現し過ぎなんだよなー。こないだのスズメバチで通算五十件とかさあ……」
おもむろに立ち上がった舞がぼやいた。
「それに毎回立ち向かう舞ちゃんもおかしいとは思うけどねー。だって『魔法機構』の人達とか、警察の人達だって戦ってるでしょ?」
心咲が呆れた様子で言った。
「だって、あの人達が到着するより先に潰した方が早い場合が多いんだもんでさー……」
舞がキッチンに向かいながら更にぼやき、
「あ、おやつはポテチね」
心咲の方に振り向き、歯を見せて笑いながら言った。
「……嬉しいけどさあ、私三キロ太ったばかりなんだけど?」
心咲が口をへの字にして言った。
「いや、心咲は痩せ過ぎだから。あばら骨浮き出まくってるし。それにその身長なら五十キロまでは誤差でしょー」
二人が実のない会話をしているその時、インターホンが鳴った。
「……ん? 誰さんかな?」
舞がインターホンの受話器を取って確認をすると、
「……立花さんだって」
舞が首を傾げて言った。
「……どうして?」
「さあ……?」
舞と心咲は同時に首を傾げた。
舞は桃子をリビングまで案内し、冷蔵庫で冷やしていたお茶を三人分注ぎ、ソファの前の背の低いテーブルに置いた。
桃子は肩掛け鞄をソファに置き、心咲は桃子の向かい側に座った。
「ペットボトルのお茶でごめんねー。冷たいのがいいと思ってさー」
舞は心咲の隣に座り、少しだけばつが悪そうに言った。
「あ、えっと、うん……」
桃子は生返事を返し、お茶が入ったコップを手に取り、一口飲んだ。
「あの、立花さん、どうかしたの? いきなり家に来るなんて……」
心咲が訝しげな表情になって言った。
「あー……えっと……その……」
桃子はしどろもどろに答え、一度深呼吸をした。舞を真っ直ぐ見据える。
「……真野さん、どうして『あの事』にすぐに気付いたの?」
「あの事って……こないだの人肉スープ?」
「ちょっと舞ちゃん、オブラートに……!」
心咲が目を剥いて怒鳴りかけ、
「いや、事実だし……」
舞が困った様子で言葉を被せた。
「それと、あの時どうして三橋さんを伴って教室を飛び出したの? それと三橋さんはどうしてすぐにそれに従ったの? 水野さんと向井さんはどうして真野さんに従ったの?」
「う……そ、それは……」
「目を逸らさないで。……あなた達、何を隠してるの?」
桃子に問い詰められ、舞が目線を心咲に移すと、心咲も舞を見ていた。
「……わかった。正直に話すよ」
舞は肩を落として言い、突然心咲を抱き寄せた。
「きゃ……!」
「私達、付き合ってて、一緒に住んでまーす!」
舞はニコニコと笑って言った。心咲は頬を桜色に染め、満面の笑みを浮かべる。
「は…………はあ!?」
桃子は唖然とした。
「い、いやだって、女の子どうしで……いやいやいや……!」
「駄目ぇ?」「駄目なの?」
舞と心咲が桃子を上目遣いに見て言った。
「い、いや、駄目とは……ってそうじゃない!」
桃子は力強くテーブルを叩いて立ち上がった。
「私が聞きたいのは、真野さんと三橋さんの行動が不可解で、もしかして巷で話題の魔法少女なんじゃないかって事!!」
一気に捲し立てた桃子の息は上がっていた。
「あ、そっちね」
舞はそう言い、ケラケラと笑った。
「何が可笑しいの!?」
「いやだって、仮に私がそれだとしても、はいそうですって答える訳ないじゃない。三橋さんがそうだとしても総理大臣とか警視総監がプライバシーの問題で基本他言無用って言ってたでしょー?」
舞は笑いながら答えた。
桃子は顔を真っ赤にして肩掛け鞄を漁り、
「じ、じゃあこれは何!?」
舞と心咲に写真を突き付けた。写真には制服姿の舞が写っていて、その胸元にペンダント――『エボルペンダント』が少しだけ見えていた。
「……いつ撮ったの?」
舞が少しだけ驚いて言った。
「新学期の新聞用に撮った写真見てたら、偶々写ってたのを見つけたの」
「そっか、立花さん新聞部だっけか……」
「ネットの掲示板情報だからあまり信じられないけど……魔法少女って蒼い宝石のアクセサリーを所持してるんでしょう?」
「……さあてねえ」
舞が意味ありげに笑みを浮かべた。
「真野さんの性格から考えて、お洒落とかでこういうの学校に持ってこないだろうし」
「さあ、どうだかね」
「少なくとも、ザ・ワンの情報が怪物としてネットに出回る前はこんなの身に付けてなかったし」
「うーん、周りをよく見てるんだねえ」
「その言い方だとザ・ワンが出た後から付けてるって言ってるようなものだけど?」
「…………」
「どうなの?」
「…………」
舞は暫く黙り、
「……私がザ・ワンと戦った赤い女の子……ネクストだって言ったら信じてくれる?」
「…………は?」
目を点にした桃子に、舞は穏やかな笑みを向けた。
「三橋さんの事は知らないけど、私はネクスト。ザ・ワンと戦った、最初の魔法少女ってなってる。……ま、巷の魔法少女とは全然違うんだけどね」
舞は肩をすくめながら言った。
「な、何で?」
「何が?」
「何で急に認めたの?」
「んー、隠し通すのが難しいなって思ったから」
「…………」
絶句した桃子に、舞は語りかける。
「……あのさあ、私だったから良かったけど、不用意過ぎると思うよ?」
「…………」
「私がとんでもない極悪人とかだったらどうするつもりだったのよ? せめて一人でホームグラウンドに突っ込むような事はしない方がいいと思うよ?」
「…………」
絶句し続ける桃子を見て、舞は肩をすくめ、何となくといった動作で心咲の頭を撫でた。
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