実態

 それから少しして、『暇過ぎるから来た』と言ってむくが舞の家に来て、桃子とうこを交えた四人でうすしお味のポテトチップスをつまんでいたのだが、


「は、はあ!? バラしちゃったの!? 立花さんに!?」


 舞が事の顛末を話した結果、椋が大声を出した。


「やっちゃったのよね……舞ちゃんが」


 心咲が肩を落として言った。


「ちょ、ちょっと……、私達がどんだけ周りにぶちまけたいの我慢したのかわかってるの!?」

「話したかったのね……」


 椋の物言いに桃子が呆れる中、


「…………」


 当の舞は、黙々とポテトチップスを口に運んでいた。両頬が、エサを詰め込んだハムスターのそれのようだった。


「ちょっと舞ちゃん……、食べてないで、どうして喋っちゃったの!?」


 椋が問い詰めた。

 舞はポテトチップスを飲み込んで、呑気にお茶を一口飲んで、


「んー、立花さんにも言ったんだけどさ、隠すのが難しいなって思ったんだよ。少なくとも、先生よりずっと洞察力が高いみたいだから」


 そう言ってさらにポテトチップスに右手を伸ばそうとして、


「食べ物に逃げない!」


 その手を椋に叩かれた。

 舞は少し不服そうに右手を擦りながら、


「だってさあ……、心咲と付き合ってるって事実で誤魔化しても流されないし、『エボルペンダント』首にかけてるの撮られてたし……」

「しかもレズってカミングアウトしちゃったのね……」

「ビアンなのはその内バレるし。それに、」

「……それに?」

「ビーストが出た時に変な行動取ってたら勘付く人は絶対出てくるって思ってたからね。私の予想より出てくるのずっと早かった訳だけど」


 舞はそう言って、今度こそポテトチップスを一枚つまんで、口に放り込んだ。


「あ、あのさ、向井さん、そんなに真野さんを責めないで? あの、こう言ったら怒られるのはわかるんだけど、私、はぐらかされたら変身の瞬間撮れるまでストーキングしてただろうし……」


 桃子は控えめに言った。


「…………ああ、もう……。立花さんが周囲に言いふらさらいとは限らないのに……」


 椋は目の周りを手で覆った。


「だ、大丈夫だよ。ただ私が知りたかっただけだし。それはしないって決めてるから。神様に誓って」


 桃子は慌てて弁明したが、


「……神様、ねえ」


 それを聞いた舞の表情が変わった。乾ききった表情になった。


「少なくとも私とザ・ワン生み出すのを黙認してる時点でそんなのいる価値がないんだよねえ……。私や人間はどっちも……こんな言い方痛々しいかもしれないけど……『世界の敵を生み出した大元』な訳だし」

「えっ……?」

「私はザ・ワンを殺しきれなくてビーストを生み出した。ザ・ワンは致命傷を負わせた私への腹いせで細胞レベルで分裂してビースト細胞になった。そういう事だよ。マスコミはあの戦いの映像を美化してるみたいだけど、あれ、私は負けてるんだ。ザ・ワンを殺せず、世界中でビーストが出現する原因になったんだから」

「…………」


 乾ききった表情のまま淡々と話した舞を見て、桃子はこの日何度目になるかわからない絶句状態になった。


「や、まあ、詳しくは言わないけど、私に三回位チャンスを与えてくれたって言うのなら、それはそれで感謝すべきなんだろうけどね」


 それを見た舞は、慌てて笑って言い繕った。


「ま、舞ちゃん……?」


 心咲が不安そうに舞を覗き込んだが、


「ん?」


 舞の表情は、乾いていなかった。


「……あのさ、舞ちゃん。自分の事失敗とか言わないでよ。心咲もたぶんだけど、そう言いたいんでしょ?」


 椋が諭すように言った。


「……ごめん。神様云々ってとこに反応しちゃってさ……。立花さんもごめんね。それだけ絶対に隠し通すって意味だったんでしょ?」


 舞は自嘲気味に笑って言った。


「あ、うん……そうだよ……?」

「……だよね。ごめんごめん、ちょっと毒吐いちゃって……。取り敢えずポテトチップス食べ……」


 舞はそう言ったが、ポテトチップスは既になくなっていた。


「あちゃー……、食べきってたか……」


 舞は呑気に言った。


「あ、あの、さ」


 桃子が唐突に口を開いた。他の三人の注目が集まる。


「……ど、どんな感じなの? 魔法少女の戦いって」

「ん……こないだの人肉スープの時に放送をジャックした……ええと、ホワイトチェイサー? は何回も会ってるから知ってるんだけど、基本ビームで消し炭にしてるかな」

「じ、じゃあ真野さんは?」

「…………」


 舞は暫く黙って、


「……聞かない方がいいと思う。聞いたら絶対後悔するような戦い方だから」


 真顔で淡々と答えた。

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