気付いたのは

「アカン、も、もう、動けない……」


 机に突っ伏した舞が呻いた。


「ちょっと、大丈夫なの?」


 心咲みさきが心配そうに舞を揺すった。


「……無理……」


 舞は覇気が完全に失われた声で呻いた。


「……ね、ねえ、真野さん大丈夫なの?」


 クラス委員の桃子とうこが見かねた様子で言った。


「無理ー……」


 舞は机に突っ伏したまま答え、


「あ、大丈夫だよ立花さん。ただお腹空いてるだけだから……」


 心咲が少し呆れた様子で舞を見ながら言った。


「……にしては、かなりリアクションがオーバーな気がするけど」


 桃子が訝しげな様子で舞を見つめた直後、給食を運ぶ台車が教室に到着した。舞がそれに反応して勢い良く起き上がる。


「うわっ」


 桃子はそれに驚いて仰け反った。


「……心咲、今日の給食って肉あったっけ」

「……確かスープにお肉が入ってたと思うよ」

「グッド」


 舞が拳を握り締めて呟いた。


「……ねえ、真野さんって部活は何部?」


 仰け反っていた桃子が姿勢を正しながら言った。


「へ? 別に何も入ってないよ? なして?」


 舞がキョトンとして言った。


「え……体育の時間とか毎回凄い動きしてるのに、そんなの勿体無いよ」

「あー……別に部活入って活躍したい訳じゃないし。それに……」


 舞は心咲を見て、


「……大事な人と家で一緒にいる時間が多い方がいいし。じゃあ給食もらってくるから、私はこれで」


 舞はそう言って渾身の力を込めて立ち上がると、フラフラと給食をもらう列に向かった。


「あ、じゃあ私も……」


 心咲はそう言って、舞の後を追いかけた。


「え? …………え?」


 取り残された桃子は、ただただ困惑していた。



 全員に給食が行き渡った事を確認してから、全員でいただきますと言って、給食の時間が始まった。


「嗚呼……蛋白質……カロリー……」


 舞は泣くのを堪えて給食を食べ始め、


「…………ん?」


 手始めにスープに手をつけようとして、固まった。

 スープを、中に転がる肉をまじまじと見つめて、


「いや、ちょ、待って嘘でしょ……」


 舞は猛烈に嫌そうに呟いて、


「皆ストップ!」


 大声を上げながら立ち上がった。

 全員の注目が集まり、担任が注意しようと口を開いた時だった。


「皆! スープ食べちゃ駄目だ!」

「おい真野、ふざけるのは――」


 担任が注意しようとして、


「先生、気付かないんですか!?」


 舞が目を剥いて怒鳴り、そこでハッとした表情に変わった。


「……あ、そっか、普通気付かないか……!」


 舞が右手を額に置いて言った。


「おい、何言ってるんだ!?」

「んあー……あー……と、兎に角絶対スープ口にしないでください! 心咲、椋! 食べちゃ駄目だ! 食べたら色んな意味で戻れなくなる!」


 舞がかなり焦った様子で言い、


「三橋さん一緒来て!」


 そう続けて、教室から飛び出した。


「えっ、ちょっ……!?」


 ミチルは立ち上がると、弘輝こうき晴夏はるかにスープに手をつけないように言って舞の後を追った。



「ちょっ、真野さん、待って!」


 ミチルの呼び掛けに答え、舞が立ち止まった。振り向いた舞はビーフジャーキーをくわえ、咀嚼を殆ど行わずにビーフジャーキーを飲み込んだ。


「何? 今かなりヤバイ状況!」

「それはわかるけど、スープに何があるの!?」

「……あの肉、ヤバイ食材って言えばわかる?」

「は……え? 何肉なんです?」

「これでわかんないならその方が幸せ。で、頼みがあるんだけど、変身して放送をジャックして欲しいの」

「え……何で変身?」

「騒ぎ起こして全校生徒の食事を停滞してもらいたいの。そんで、騒ぎ起こすなら変身した方が身バレしないかなって。行くよ!」


 舞はそう言うと再び走り出した。ミチルも後を追う。


「それはいいですけど、私何て名乗ればいいんですか!?」

「適当に名乗ればいいでしょ! ターボレーザーとか何でもいいから!」

「真野さんはどうするんです!?」

給食楽しみを潰したやつを潰しに行く!」

「……わかりました。わかりましたよ。今回は従います」


 ミチルが諦めた様子で言った。


「ありがと。んじゃ階段の踊り場で変身ね」

「了解!」


 その直後、二人の右側に階段が見えた。


「はっ!」


 舞は階段の手すりを乗り越え飛び降り、


「変身!」


 素早く変身した。


「そこ飛び降ります!?」


 ミチルは驚き、二階と三階の間まで駆け足で降りて変身した。


「私放送室行きます!」


 ミチルは階段を駆け降りていく舞の背中に言った。


「頼んだ!」


 舞はそう言いながら、階段を駆け降りて行った。

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