弊害

 三時間目終了後。


「腹が……減った……」


 机に突っ伏した舞が呻いた。


「……食べ過ぎで胃が大きくなってるんじゃない?」


 次の授業の準備をしながら、呆れた様子の心咲みさきが言った。


「うぐ……言い返せない」


 そう言うと、舞はむくりと起き上がった。


「うへえ……。周りの人全員からお肉の匂いがする……。こればっかりは自分を呪うよ……」

「食べないでよ?」


 心咲は冗談半分、本気半分に言った。


「流石にそれはしないー……。うう……」


 舞は本気半分、本気半分に答えると、机の脇に引っ掛けていたリュックサックの中から水筒を取り出し、一口、二口と飲んだ。


「所詮焼け石に水だけど、これで多少はマシでしょ……」


 そう言った舞の表情は暗かった。


「はいはい。ほら、次音楽だよ? 行かなくちゃ」

「うげー……」


 舞は嫌そうに呻くと、ゆっくりと立ち上がった。



 同時刻。


「うわあああ!? や、止めろ! 止めてくれ!」


 不快な低音が何重にも重なって鳴り響く給食室で、二体の異形から青年が逃げ回っていた。


「う、うわああああああ!?」


 逃げ回っていた青年はとうとう中年の女性から変貌しかけている異形に掴まれ、調理するための台の上に押さえ付けられた。


「い、嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だあぁ!!」


 青年の目の前で、変貌しかけの異形が完全に姿を変え、蜂のような姿になった。同時に、壮年の男性だった異形も、男性だった部分を脱ぎ捨てるようにして蜂のような異形に変わった。


「ああああああああああああああああああ!!」


 青年の悲壮な叫びは、誰にも届かなかった。

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