熱線

 夜、市ヶ目いちがめ市の駅前の広場。

 街灯に照らし返された夜空に、蒼白い熱線が一筋走った。

 逃げ惑う人々の悲鳴が空気に充満し、その空気は文字通り焼かれていた。

 逃げ惑う人々をかき分けるように、スローレイダー隊のジープが到着した。


「ちょっ、何アレ、いくらビーストでも怪獣じゃないんだから!」


 そう言った翔子の視線の先には、蒼白い熱線を吐き続ける異形の怪人がいた。

 漆黒の全身は刺々しく筋骨隆々で、太く長い尾を持ち、赤く小さな目を光らせていた。


「あれがコモドドラゴンビーストみたいです! 熱線に注意して行動してください!」


 冷や汗をかき、狙撃銃ライフルの一発目を装填しながら、エドが言った。ミチル達が了解と言いながら頷く。


「先行ってます!」


 ミチルはそう言ってジープから飛び出すと、素早く変身すると、怪人――コモドドラゴンビーストに向かって駆け出そうとして、


「うおおっ!?」


 コモドドラゴンビーストがミチルに向かって熱線を吐いた。ミチルは慌てて魔法障壁を展開して熱線を防いだ。


「ってヤバイヤバイヤバイ熱いし溶けてる!?」


 ミチルが焦る目の前で、魔法障壁が凄まじい勢いで溶け始めていた。


――Circle shield!――


 突然ミチルの背後に舞が現れ、波打つ水面のような青い光の壁を展開した。


「ちょっ、どこから!?」

「後ろから走って来たに決まってるでしょ。後、私今両手両足痛いからとっとと倒すよ」


 舞はそう言い残すと、光の壁を目の前に展開したままコモドドラゴンビーストに向かって走り出し、途中で跳び上がってコモドドラゴンビーストの背後に降り立った。


「――シッ!」


 舞はそのまま心臓を貫こうと右手を伸ばしたが、


「――――っ!」


 右手が堅い鱗に弾かれた。激痛に顔を歪める。

 コモドドラゴンビーストが唸り、尾で舞を殴打した。舞が右肩から地面に倒れる。

 コモドドラゴンビーストは振り向くと、大きく口を開いた。開かれた口の中に蒼白い光が迸る。

 直後、コモドドラゴンビーストの背中で爆発が起こった。


「今だ――っ!!」


 コモドドラゴンビースト越しに、ミチルの叫び声が舞の耳に届いた。


「っ!!」


 舞は右手を『エボルペンダント』に翳した。同時に、腕に黄金色の弓が出現した。

 舞は寝転がったまま右腕をコモドドラゴンビーストに伸ばすと、矢を引き絞り、放つような動作を行った。


――Arrowray strom!――


 同時に『エボルペンダント』から音声が流れ、黄金色の弓がコモドドラゴンビーストに放たれた。

 黄金色の弓が、コモドドラゴンビーストを貫いた。

 真っ二つになったコモドドラゴンビーストが左右に崩れ落ちると、舞の目の前で爆発した。



「……大丈夫、ですか?」


 蹲ったままの舞に、ミチルが話しかけた。


「…………うん、両手両足痛い以外は大丈夫」


 舞は蹲ったまま答えた。少しして、起き上がると、星が見えない夜空を見上げた。


「…………危なかった。あれ、コモドドラゴンビースト、だっけ?」

「えっと、はい、コモドドラゴンビーストです」

「あいつの鱗、サソリビーストの装甲みたいだった。長引いてたら本当に死んでた」


 舞はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


「確かに、ミサイルがあまり効いてなかったような……」



 ミチルが思案顔になって言った。


「うん、弓も一か八かだった。……じゃあ、もう帰るね」


 舞はそう言うと、ふらふらと歩き出した。


「あ、はい。手と足、お大事に……」


 ミチルの言葉に、舞は背中越しに手を振るだけで答えた。

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