対決

 『トンネルに触手が出現した』という通報を受けて、解析のために残った石堀以外のスローレイダー隊が現場に向かった。

 現場のトンネル前に到着すると、そこには誰もおらず、車やバイクは乗り捨てられていた。


「気を付けてください。トンネル内で出現したからといって、いつここまで触手を伸ばしてくるかわからないので」


 エドが周囲を警戒しながら言った、その時だった。


『うわっ、何だこれ……!?』


 石堀の困惑した声が、ヘルメットに内蔵された無線から聞こえた。


「石堀さん?」

『た、隊長、トンネル内部周辺のかなり低い位相で、強力なエネルギー反応を三つ探知しました。』


 エドはそれを聞いて、石堀の通信が全員に送信されるように設定した。


「…………反応を詳しく解析出来ますか?」

『はい。……えっと、一つがザ・ネクストの反応、もう一つが、この間のミミズビーストが出現した時の仮面の男の反応、最後の一つは、触手が出現する時にできる歪みから漏れ出ていた微弱なエネルギー反応と同一の物です』

「石堀さん、反応の中心はどこですか?」

『トンネルの中央――』


 石堀の言葉を最後まで聞かずに、ミチルが走り出した。


「ミチル! 待て!」


 エドは怒鳴ったが、ミチルはそれを聞かずにトンネルに突入した。


「追うぞ!」


 エドはそう言ってミチルを追いかけ始めた。翔子、西条、溝呂木の三人もそれに続いた。



 エド達がミチルに追い付いた時には、ミチルは既に変身していた。

 ミチルは周囲を何度も見渡すと、トンネルの中心にあたる空間を睨み付けた。


「……ミチル、どうしたんだ?」


 エドの言葉を耳にして、ミチルは振り返った。


「この辺りです。この辺りで、ま……ネクストが戦っているんです」


 そう言ったミチルの声には、焦燥感が滲んでいた。


「でも、座標がわからないと位相の移動は……」


 翔子がそう言いかけて、


「いいえ。今の『エボルブレスレット』なら、大丈夫なんです」


 ミチルが首を横に振った。


「それなら行ってみればいいんじゃないか? ネクストの事だ、苦戦はしていないだろうけど」


 西条がそう言って、手の中にある狙撃銃ライフルに弾薬が装填されているかの確認をした。


「隊長、お願いします」


 ミチルがそう言って、隊長を見つめた。


「…………わかった、頼む」


 エドは観念した様子で言った。


「ありがとうございます」


 ミチルは礼を言うと、右腕を肩の高さまで持ち上げた。


「『ハイパーストライクフォーメーション』!」

『Hyper strike formation!』


 『エボルブレスレット』の音声がトンネル内で反響した直後、ミチルの右手の掌を中心に、空間に穴が開いた。穴は凄まじい勢いで広がり、すぐに人が三人並んで通れそうな程の大きさになった。


「行きましょう!」


 ミチルは振り返って言うと、穴に向き直って、そのまま突入した。



 立ち上がろうともがく舞に向かって死神が歩き始めた、その時だった。

 死神の真横の空間に穴が開き、そこから、右飛び蹴りの姿勢になったミチルが飛び出した。


『なっ!?』


 死神が困惑する中、タコビーストがミチルの右足首を掴むと、舞に向かって放り投げた。


「きゃっ!?」「っと!」


 投げ出されたミチルを、舞が受け止めた。

 それと同時にエド達が穴から飛び出した。死神とタコビーストを見て、各々拳銃、散弾銃ショットガン、狙撃銃を構えた。


「……かなり危なかったみたいですね」


 ミチルはそう言うと立ち上がり、舞の右手を掴んで立ち上がらせた。


「ありがとう。それで、見りゃわかるだろうけど、あっちのウネウネしてる奴が触手の正体ね。んでもって再生能力がちょっとおかしい。たぶんごはん沢山食べたんだろうね」


 舞がタコビーストを見ながら言った。


「ご、ごはんって……」

「事実だよ。それとも『穴の中に引きずり込まれて行方不明だった人』って言っちゃえばいいの?」

「…………」


 ミチルは嫌そうな表情になると、死神とタコビーストを交互に睨んだ。


「……まあ、そういう事だから、ウネウネは頼んだよ!」


 舞はそう言うと、死神に向かって走り出し、飛び込むように体当たりを行った。死神と組み合って転がっていった。


「もう……!」


 ミチルは悪態をつくと、何も言わずに『ディバイドロッド』を呼び出し、


「『ストライクパニッシャー』!」

『Strike punisher!』


 迫ってきていた二本の触手を、極太の蒼白い光線で焼き払った。

 それと同時に、エド達が銃撃を始めた。



 組み合った舞と死神は、暫く転がり続けてから離れた。

 舞と死神は同時に立ち上がり、飛び退いた。

 少しの間様子を見て、同時に走り出した。

 走る途中、死神は右手の鉤爪を展開し、右腕を肩の高さまで持ち上げ、引き絞った。


「っ!」


 舞はそれを見て、右腕を左腰で抱え込むように構えた。

 二人は同時に跳び上がり、


「だあああああああっ!!」『はあああああああっ!!』


 気合いと共に、右腕を振った。

 舞の右腕の刃と死神の鉤爪が激突し、金属質の轟音が鳴り響いた。

 どちらも弾かれず、激突したまま着地しても、鍔迫り合いのように腕と鉤爪を押し込もうとする。


「う…………おおっ!!」『ぬ…………ううっ!!』


 舞と死神は、それぞれの右腕に、左手をあてがって力を込めた。


「う…………ああああああああっ!!」


 舞は吐血せんばかりに咆哮し、両腕に限界以上の力を込めた。


『ぬっ……お……!?』


 鉤爪を押し込まれ、死神が呻いた。

 鉤爪は徐々に押し込まれ、そして、


 硬質な音が鳴り、二又の分かれていた鉤爪の先端が、両方とも折れた。


 舞はそのままのけ反り、死神の顎にサマーソルトキックを叩き込んだ。

 死神は、呻く事も出来ずに吹っ飛ばされ、背中を地面にしたたかに打ち付けた。


「――っ!!」


 反転して着地した舞はそれを見て、死神に素早く駆け寄った。死神に掴みかかって無理矢理立たせると、回転する勢いを乗せて投げ飛ばした。

 投げ飛ばした先には、タコビーストがいた。


『ぐおっ……!?』


 タコビーストに激突した死神が呻いた。


三橋みつはしさん!!」


 舞が怒鳴るように言った。


「合わせればいいんでしょ!!」


 ミチルは怒鳴り返して答え、『ディバイドロッド』を大きく腕を回して振り始めた。『ディバイドロッド』の軌道をなぞるように、空中に魔方陣が描かれ始めた。


「不味い、離れましょう!」


 エドが慌てて言って、全員が了解と答えた。エド達は全力で離脱を始め、突入してきた穴に次々と飛び込んでいった。

 それを尻目に、舞は左腕、右腕の順に突き降ろし、手首を交差させた。


「はあああああ……」


 舞は、電流のような蒼白いエネルギーが迸る両腕を、曲げながらゆっくりと持ち上げる。


「ふっ!」


 舞は両腕を、Yの字になるように掲げた。


「行ける……!」


 それと同時に魔方陣を描き終えたミチルが、『ディバイドロッド』を右腰で抱えるように引き絞った。


「『ウルティメイト……パニッシャー』ッ!!」

『Ultimate punisher!』


 ミチルが渾身の力を込めて叫びながら『ディバイドロッド』を突き出し、『エボルブレスレット』がそれに続いた。


「はあああああああああっ!!」


 舞は、右腕が垂直に、左腕が水平になるように両腕をL字に組んだ。


――Overray strom!――


 それに一拍遅れて、奇妙な低い音声が鳴り響いた。

 それと同時に、舞の右腕から蒼白い光線が放たれ、ミチルが描いた魔方陣から高密度かつ極太の蒼白い光線が放たれた。

 二筋の光線は、死神とタコビーストに向かって飛び、避ける間もなく命中した。

 タコビーストは瞬時に細胞単位で焼き払われ、悲鳴を上げる間もなく消滅した。


『ぐっ、うう……!』


 死神は暫くの間堪え続けたが、


『ぐっ……、うあああああああああああああああああ!!』


 ついに悲鳴を上げ、光の大奔流の中で大爆発を引き起こした。


「っ!?」「っ!?」


 舞とミチルは、死神が引き起こした大爆発に飲み込まれた。



 トンネルの奥から爆炎が吹き出し、同時に爆発音を響かせた。爆発音は、十秒近く反響した。

 エド達は、トンネルの入り口から五十メートル離れた位置でそれを目撃した。


「…………嘘だろ…………」


 溝呂木はそう言うと、その場に崩れ落ちた。


「み、ミッちゃん…………」


 翔子はそう言いかけて、両手で口元を覆った。

 全員が呆然とトンネルの入り口を眺めていた、その時だった。

 舞とミチルが、肩を組んでふらふらとトンネルから出てきた。二人の体のあちこちは、焼け焦げていた。

 二人はエド達に気付くと、それぞれ空いている方の腕を上げて、大きく手を振った。


「…………!!」


 エドは感極まって泣き出しながら、腕を振り返した。他の隊員達も、同じように手を振った。

 舞とミチルは頷き合うと、ゆっくりとエド達のいる場所に歩き始めた。

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