第十六話 激闘

天からの触手

「うわあああああ!?」


 男性の腰に赤黒い触手が巻き付き、持ち上げる。男性は空に開いた黒紫色の穴に連れ去られそうになり、悲鳴を上げた。


――Particle feather!――


 奇妙な低い音声が鳴り、小型の光刃が飛び、男性に巻き付く触手を切り落とした。


「うわあああああ!?」


 男性がアスファルトの地面へ落下を始めて、


――Saving vyute!――


 蒼白い光の鞭が絡め取り、そっと地面に降ろした。


「――あ、あれ?」


 男性が辺りを何度か見渡していると、


「逃げて! 早く!」


 紅い髪に真っ赤な瞳の、赤いワンピースを着た少女――変身した舞が男性に大声で言った。


「はっ、はいい!」


 男性はそう言うと、慌てて立ち上がって、全力で走り去った。



「……何なんだアレは……」


 舞は走り去る男性から目を離し、空を見上げる。

 男性を掴んだ触手は、黒紫色の穴から五本伸びていた。

 触手は、逃げ惑う人々に手当たり次第に伸びて行き、掴みかかっていた。


「危ない!」


 舞は、それを片っ端から光刃で切り落として光の鞭で受け止めて降ろし、穴の中へ連れ去られそうになっている人々を救出していた。

 触手は、舞に切り落とされると穴の中に引っ込んだが、すぐに新しい触手が穴から顔を出していた。


「何本あるんだよアレ……」

「真野さん、伏せて!」


 突然ミチルの声が聞こえて、舞は素早く伏せた。

 舞の頭上を太い光線が走り、舞を絡め取ろうとしていた触手を焼き切った。

 舞が顔を上げると、光線が飛んできた方向に、『ディバィドロッド』を構えたミチルがいた。


三橋みつはしさん、助かった!」


 舞はお礼を言うと、両腕を組むような構えを取り、素早く前方に振って大振りの光刃を放った。

 光刃はミチルの頭上を飛び、ミチルの真後ろに迫っていた触手を切り落とした。


「っ、いつの間に!?」


 ミチルが振り向いて言った。

 舞がミチルに駆け寄ると、舞とミチルは背中合わせに立った。


「他の人達は?」


 舞が小型の光刃を放ちながらミチルに聞いた。


「避難誘導をしながらアレと戦っていますけど……」


 ミチルは『ディバィドロッド』で四個の魔方陣を展開し、そこから数十発のミサイルを生み出し、触手に向けて放った。


「このままじゃジリ貧なのは目に見えてるよね……」


 舞が呻くように言って、


「あのさ、考えがあるんだけど」


 そう話を切り出した。


「何ですか?」


 ミチルは視線を触手から逸らさずに聞き返した。


「一瞬だけでいいから、あの触手を全部焼き払う事って出来る?」

「焼き払うだけなら出来ますけど……」

「十分だ。じゃあ、『今だ』って合図を送ったら、あの触手、根元まで全部焼き払って。そうしたら、私があの穴に直接攻撃するから」

「……他に方法がなさそうですし、今回は乗ります」

「ありがとう。じゃあ、頼んだよ」


 舞はそう言うと、体を黒紫色の穴に向け、穴を睨んだ。


「…………」


 舞は右腕を胸の前で水平に、左腕を腰の位置で固定した。開いた両手の間で、無数の電流のようなエネルギーが走る。

 暫くの間そうして、


「『今だ』!」


 舞は、唐突に叫んだ。


「ハイパーストライクパニッシャー!!」


 それを聞いた、『ディバィドロッド』を構えて待機していたミチルが叫んだ。


『Hyper strike punisher!』


 『エボルブレスレット』から音声が鳴り響き、『ディバィドロッド』の先端から、巨大な魔方陣が展開した。魔方陣から、極太かつ高密度の蒼白い光線が放たれた。


「うああああああああああああああああああああ!!」


 ミチルは吐血せんばかりに叫びながら、『ディバィドロッド』を大きく振った。それと連動して魔方陣と光線が動き、蠢く触手を全て焼き払った。


「はああああ……あああああ!!」


 直後、舞が叫びながら右腕を垂直に、左腕を水平に交差させた。


――Crossray strom!――


 奇妙な低い音声が鳴り、舞の右手から赤い光線が放たれ、黒紫色の穴の中央に吸い込まれるように命中した。

 光線が全て吸い込まれた直後、穴の中で爆発が起こり、大量の火花が飛び出した。


「グギァヤオォオオンンンン!?」


 不気味な悲鳴が穴の中で響き、黒紫色の穴が閉じ始めた。


「――!?」


 穴が完全に塞がる直前、舞とミチルは、穴の中で蠢く異形の姿を垣間見た。

 体毛はなく、皮膚はぬらぬらと輝き、目に嵌め込まれた瞳は、真一文字を描いていた。

 直後、穴は完全に塞がった。


「……これで、今週に入って三件目か」


 舞はそう言うと、周囲を見渡した。


「……今回は間に合って良かった」


 後悔が入り交じった声で、自分にだけ聞こえるように言った。

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