人間

「はあ…………」


 食堂で昼食にと炒飯を食べていたミリヤは、テレビに映っているリベラル派の二十代後半の女性を見て、深い溜め息をついた。


「世も末なのかしらね……」

「何がですか?」


 ミリヤの後ろから声が聞こえてきた。ミリヤが振り向くと、そこには翔子がいた。生姜焼き定食をプレートに乗せて持っていた。 


「あら、平木隊員」

「向かいに座ってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「じゃあ失礼しますね」


 翔子はことわってからミリヤの向かいに座った。


「それで、何が世も末何ですか?」

「ああ、それね。……テレビ、見れるかしら?」

「あ、はい」


 翔子はそう言うと振り向いてテレビを見た。テレビには、相変わらず女性の優位性とさらなる社会進出を熱弁するリベラル派の二十代後半の女性が映っていた。


「今移ってる彼女、私の同級生なんだけどね」

「はい」

「すっごく性格が捻曲がってたの。悪口陰口は当たり前で、自分の手を汚さないように他人をいじめてたわ」

「ええ……」


 翔子は呆れて物も言えなくなっていた。


「それで、大人になって彼女は記者になったんだけどね、平気で酷い捏造をしているわ」

「え、それ、バレたりしてないんですか?」

「六割本当の事を書いて、残りの四割を酷い捏造にして六割の中にバラバラに入れて余程じゃないと気付けないようにしてたから、たぶんバレてないのでしょうね……」


 ミリヤは、どこか諦感が混じったような声色で言った。


「……そういう人に限って、酷い目に会わないですよね」


 翔子はそう言って向き直り、呆れを飲み込むために茄子の味噌汁を飲んだ。


「熱っ……」


 味噌汁は、翔子の想像よりも熱かった。


「まあ、私達にはどうにも出来ない事だから、ここで溜め息ついてても仕方ないのだけれどね」


 ミリヤが諦めるように言った。


「あー、でも、この人明日市内に来るみたいですよ」

「へ?」

「もうチケットは売り切れてるみたいなんですけど、文化センターに講演会をしに来るみたいです」

「…………ビーストが襲いに行かないかしら」


 ミリヤはボソリと言った。


「いやいや、それ言っちゃ駄目ですって。少なくとも今は仕事中なんですから」


 翔子はそれを慌てて笑い飛ばした。


「…………そうね。とりあえず、食べちゃいましょうか」

「ですね」


 二人は、それぞれが頼んだ料理を食べ始めた。

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