Intellect and Wild

 注文した物を先に平らげた舞は、ミチルを置いて出発した。

 十五分程走り続け、舞が辿り着いたのは、遊園地に併設された体育館だった。周囲には、誰もいなかった。


「あの中か……」


 舞はそう呟いて、体育館に土足で踏み入り、最大限警戒しながら進み、虱潰しに周囲を探索した後、最後にアリーナに足を踏み入れた。


 アリーナの広さは二十メートル四方で、天井は、十メートル程の高さがあった。入口から見て二方向から挟むようにギャラリーが存在していた。

 その中央に、五体の黒い異形の怪物がいた。その全てが、蟻を彷彿とさせる姿をしていた。


「アリビーストか……」


 舞は呟くと、シャツの胸元から蒼い宝石が嵌め込まれたペンダント――『エボルペンダント』を取り出して、宝石を親指と人指し指で挟んで、


「変身」


 静かに、しかしはっきりと言った。


 舞を見た五体のビースト――アリビーストは、一斉に走り出し、舞に向かって走り出した。


 その瞬間、宝石が紅く光輝き、舞を桃色と白が入り混じった炎のようなオーラが包み込み、同時に舞を中心に爆風が発生し、五体のアリビーストを吹き飛ばした。


『Intellect and Wild!』


 奇妙な低い音声と共にオーラが消え、その内側から、赤と黒を基調とした姿の舞が現れた。


 アリビーストが素早く立ち上がるのを見て、舞は歩き始めた。

 アリビーストは動き出し、舞を取り囲んだ。


「まあ、前に見たのと同じだなあ……」


 舞がそう呟くのと同時に、舞から見て左斜め前のアリビーストが襲いかかった。


 アリビーストが右腕を振り上げるのを見て、舞は素早く左腕をアリビーストの右脇に差し込んで、そのまま右腕を付け根から切り落とした。


 直後、舞の右斜め後ろからアリビーストが突っ込んできた。

 舞はそれを見ないで右足で蹴り飛ばし、後方、アリーナの端まで吹っ飛ばした。


 舞は足を床に付けると、右腕を失ったアリビーストの首を右腕の刃でかき切った。右腕を失ったアリビーストの首筋からどす黒い鮮血が吹き出し、そのまま後ろに倒れた。


 舞は右腕を振った勢いを利用して、舞の右斜め前にいたアリビーストに襲いかかった。

 一発目は左、二発目は右で顔面を殴り飛ばし、左拳を鳩尾に叩き込んで隙を作ると、右手でアリビーストの頭を掴んで、二百七十度回転させて息の根を止めた。


 同時に跳び上がり、後方宙返りをして、突っ込んできていたアリビースト二体を、両足で蹴り飛ばして床に叩きつけた。そのまま押さえ込み、それぞれの左胸を左右の手で貫き、心臓を同時に引き抜き、握り潰してから適当に投げ捨てた。


「さて、後一体……」


 舞が呟くのと同時に、アリーナの端まで吹き飛ばされたアリビーストが飛び掛かった。

 舞は一瞬体を沈めると、跳び上がって背中から体当たりをして、アリビーストを吹っ飛ばした。

 舞はその勢いを利用して立ち上がると、吹っ飛ばしたアリビーストに向かって歩き出した。


 アリビーストは立ち上がると、奇声を発しながら舞に突っ込んでいった。

 舞は体を沈めてアリビーストの鳩尾に右ストレートを叩き込み、アリビーストのかかとを素早く前方に払って転ばせ、左胸を右腕で貫き、引き抜いた。その手には、心臓が握られていた。


「やっぱり気持ち悪いな……」


 舞は吐き捨てるように言うと、握り潰して、適当に放り投げた。

 それと同時に、五体のアリビーストは溶け、どす黒いゲル状の物体になった。


「……終わったか」


 舞はそう呟くと、立ち上がって、アリーナを後にした。

 アリーナから出ようとして、遠くからパトカーのサイレンが近付くのを耳にし、慌ててその場から去っていった。

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