朗報

「森国さん、お久しぶりです」


電話の主は、メジャー挑戦のために二年前に渡米した元レッドスターズの桜井だった。


「本当に久しぶりだな。どうだ、そっちの方は」


懐かしい声に森国の表情も思わず緩んだ。桜井は渡米前、坂之上とともにレッドスターズの投手陣を支えていた速球派右腕だった。


メジャー入りしてからもその制球力と球威のある直球で勝ち星を順調に積み重ねていた。


「まあ、ボチボチですよ。ただ、昨日ちょっと事態が急変しまして。それをご報告したかったのと、一つ森国さんにお願いがありまして連絡させてもらいました」


「急変?というと?何かあったのか?まさか…怪我か?」



桜井は電話口からも苦笑いしているのが分かるような乾いた笑いで否定した。


「いえいえ。身体は至って万全ですよ。ただ、ご存知だとは思いますが、うちのチームはメジャーの中でも選手層が厚く、レギュラー争いも熾烈です。それで、最近は私も試合の出場機会が減ってきていたんです」


森国ももちろん、桜井の所属チームについては理解していた。メジャーでもトップ級の選手が集まるチームが故に、桜井ほどの実力者でもローテーション入りは難しい現状があった。


「ニュースでなんとなく、そんな感じなのは知っていたよ。それで急変というのは?」



ここで桜井は一度、口籠もった。何やら呼吸を整え、落ち着いた段階で森国に打診をした。


「実はですね…うちのチームが私を放出しようとしています。昨日、チームの責任者からそう伝えられました。そこで一つお願いがあるのですが、私をレッドスターズに復帰させてもらえませんか?」


森国にとっては願っても無い申し出だった。「まさか、このタイミングで」と神の存在をこの時ばかりは心底感じた。


「でも何故、うちに?他にもメジャーのチームは幾らでもあっただろう?」



愚問だった。



「坂之上さんのこと、聞きました。私は自分の力を試すためにメジャーに挑戦しましたけど、その目標はある程度達成できたと思います。ローテーション入り出来なかったのは私の実力不足です。ですが、このタイミングで放出されるのも何か不思議な力が働いたとしか思えません。そして、こんな私でもレッドスターズの役に立つのなら、喜んで日本に帰ります」



森国は喜びで発狂しそうだった。桜井の言葉に感謝の意を伝え、すぐに球団の担当者に桜井獲得のために動くよう依頼したのだった。

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