勝ち越し
翌日の朝。各紙の朝刊はこぞってダイヤモンズの勝利を少なからず取り上げていた。
その中でも、開幕投手を務めた相沢に大きく焦点を当てた記事は東洋スポーツだけだった。そこには相沢の野球歴や地元の草野球チームのチームメートへのインタビューも入っていた。
記事の見出しは「打てそうで打てない!? 相沢の魔球」。ダイヤモンズの織田が「打てそうで打てない」と話したコメントを盛り込み、相沢が相対した三人への球種とフォームまで事細かに書かれていた。
森国や相沢の中ではひとまず想定内の範囲で収まったと言えよう。何故なら、この段階で相沢に注目が集まりすぎると、相沢の『武器』の威力が半減してしまうと考えていたからだ。この段階で「魔球」ぐらいであれば、セーフティーラインだった。
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ダイヤモンズ戦の第二戦。先発は、開幕戦では投げていない友家が指名された。森国の考えでは坂之上を先発させたいという思いもあったが、開幕戦で投げていることを考慮し、一日、間を取ることにしたのだ。
だが、友家はダイヤモンズ打線につかまり、レッドスターズも僅か1得点に抑えられて6ー1で黒星を喫した。
相沢にこの日、登板機会はなく友家からマウンドを受けた武内や地蔵が粘り強く投げたが、逆転する事は出来なかった。
第三戦では予定通り坂之上が先発。この日は打線が好調で、開幕ニ戦目まで不調だった真木が猛打賞の活躍。打線も繋がり、4ー0で勝利し、坂之上は完封で今シーズン1勝目を挙げた。
その日の試合後。ロッカールームにはダイヤモンズ戦に勝ち越したことで、喜びの声を上げる選手たちが揃っていた。
「いやあ、真木やるじゃないか! 猛打賞だもんな!」
森国から背中を叩かれながら、真木は照れ臭そうに「いえ、それほどでもないです」と口にする。
「坂之上もナイスピッチングだったな」
森国がそう褒めると、坂之上は何やら考え事をしていたのか、ようやく自分に声がかけられたと気づき「あ、ああ、ありがとうございます」と控えめに答えた。
相沢が坂之上の様子を見てみると、何処か浮かない表情で、右手の掌を何度も閉じたり、開けたりしていた。
そこで、相沢はわずかな違和感を感じたものの、「考え過ぎだ」と自分に言い聞かせ、坂之上に対しては何も声を掛けなかった。
「さあ、次からの中京ブレイブス戦も勝ち越すぞー!」と森国が選手たちを鼓舞すると、それぞれが威勢のいい声で返事をしていく。
チームは今、勢いに乗りつつあった。レッドスターズの誰もがそう思っていた。
だが、やはりプロの世界。そう一筋縄にはいかなかったのである。
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