六回裏の攻防 5
「おいおい、またサードまでランナーが行ったぞ」
記者席では桑原が吉村に向かってか、はたまた独り言か、そう口走った。
「さあ、森国監督はどう動くか」
吉村が疑問を口にすると、桑原は「まさか、もう一回ホームスチールとか?」とにやけながらグラウンドに目をやる。
バッターは三反崎だが強打で任せるには確実性が乏しい。
一番選択肢としてあり得るのがスクイズだろう。この日のレッドスターズはなりふり構わず得点を奪いにきている。ならば、打たせずにバントで確実に点を取りに来ることは十分に考えられた。
「もう、ダイヤモンズに奇襲は通用しない。とすれば、正攻法か…」
そう話した吉村に桑原は「それで本当に上手くいくのか?」と首を捻っている。
「いや、正攻法なら大八木に分がある気がするんだ」
「じゃあ、どうする?」
「俺が監督ならお手上げだ」
確かに、吉村が監督ならお手上げかもしれない。だがここで、森国はある行動一つで、ゲームを動かしたのである。
「お、おい、森国監督がベンチからなんか叫んでるぞ?」
「はあ?叫んでる?」
桑原の指摘を受けてレッドスターズのベンチを見ると確かに森国が叫んでいる。だが記者席にはその声は届かない。
「一体何なんだ?」
「俺にも分からん」
そう思ったのは二人だけではなく、記者席にいた記者全員が同様の疑問を抱いたのである。
ただ、中身はひどく単純だった。
ーーーーーーー
「おらあー!三反崎ーー!」
突然、森国が叫びだしたことに、レッドスターズのベンチも騒然となる。
「ちょ、ちょっと監督!いきなりどうしたんですか?」
止めに入った相沢を押しのけるように、森国はベンチから身を乗り出す。
「みぃたあさきいーーー!ぜってー打てえぇぇ!打つんじゃあーー!分かってんなあ!もし、打てなかったら、てめえは二軍行きじゃああぁぁーー!」
相沢は開いた口が塞がらなかった。
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