六回裏の攻防 4

無死一塁。しかも、ランナーは石川である。打順は一番に戻って鮫島。


「さて、どうするか」


首をひねる森国は、脳内でシミュレーションを行う。


選択肢としては幾つかパターンがある。


「だが…」


森国はすぐさま決断し、サインを送る。


言ってみれば、先取点のホームスチールは全てが理想的な形になった。だが、毎回理想の形で攻めることができるとは限らない。



大八木に多少なりとも疲れが見え始めている。それならば、多少強引に行くことも必要ではないかと結論づけた。


一方、打席の鮫島は大八木の様子を細かく観察していた。

大八木は肩で息をしているように見えたが、ボールのキレは未だに衰えていない。


森国からの指示は強打だったが、それならばどのボールを狙うのか。


ダイヤモンズバッテリーが一番に警戒するのは石川の盗塁であろう。だとすれば、初球は外角に外して直球を投げてくる可能性もある。


鮫島は初球には手を出さずに様子を見ることにした。


大八木はというと、一塁に牽制球を投げることなく、ホームへと初球を投げ込んだ。


鮫島の直球という読みは間違っていなかったが、コースはど真ん中のストライク。


「初球を狙っていれば…」と鮫島は後悔したが、時既に遅し。次の狙い球を絞らなければならなくなった。


鮫島は森国からのサインを確認する。


それは強打ではなかった。大八木の様子を見た森国がある作戦を指示したのだ。




鮫島への二球目。大八木が足を上げた瞬間に石川がスタートを切る。


ボールは外角へのスライダーだが甘く入った。


森国の指示はエンドラン。


鮫島はなんとかバットにボールを当てようと食らいつく。


カツン。


体勢を崩しながらもミートし、その打球はセカンドへと転がっていく。



既にスタートしていた石川は悠々と二塁に到達。


セカンドはボールを補給しファーストへと投げようとしていた。



「石川!三塁だ!」


その声がレッドスターズベンチから飛ぶ前に、石川は既に三塁を目掛け俊足を飛ばしていた。



ボールはファーストから三塁へと送られる。タイミング的には際どい。石川は勢いよくヘッドスライディングで滑り込む。



「セーフ!セーフ!」


三塁塁審が何度も叫ぶと、石川は泥だらけのユニフォームで立ち上がり、「よっしゃあ!」と拳を突き上げた。



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