恋するテクネチウム

作者 鳥辺野九

8

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★★★ Excellent!!!

――

浮足立ったVRライブの会場、一人の男がヴァーチャルなアイドルに愛を叫ぶ。
そんな冒頭から始まる恋する男の話。

横浜市はA.I.との婚姻を認め、既に5組の夫婦が誕生している。
けれどそんな結婚に意味があるのだろうか。
人とA.I.の恋なんて非対称、きっと人の片思いだ。
意中のアイドルと結婚できたって相思相愛の証にはならない……。

VRライブの興奮とは一転、中盤の男は訥々と思索を深めていく。
記号の意味、VR空間の意味、結婚の意味、人を好きになることの意味……。
そうして彼は答えを見出し、恋に決着をつけるべくVRライブへ赴くのだった。

本作はとにかくオチが秀逸だ。
丁寧な世界設定の積み重ね、A.I.の恋とは何たるかの議論、そして張り巡らされた伏線を最高の形で回収してくれる。
驚きと共に彼らの行く末を見守りたくなった。

詳細な未来描写も圧巻。
浮足立ったライブとは異なる確かな手触りを持った日常が描写されている。
生活に織り込まれたVR技術やアバターデザインなる職業。
そういったリアリティがある種ブッ飛んだ本作の設定を頑健に補強する。

ショートショートとしてもSFとしてもおススメの短編だ。



もう一度読み直すと表現の巧みさに驚きました。
伏線てんこ盛りなんですが、オチに気付かせないようとても注意深く書かれています。
芸が細かいです。