52話「決戦2」

「あいつ等弱そうだぜ! いくぞ! うおーーーーりゃ!!!」


 叫び声と共にデビッドが俺とレティナさんよりも前に単身で突撃をする。

 ちょっと待って、敵はまだ分断できてない! ファイターのお前じゃ防御力が足りねぇから耐え切れねぇだろ!


「私だって!」


 続いてルッカさんも俺よりも前に出る。

 ウィザードだからデビッドよりも前に出てないけど、壁担当の俺よりも前に出るなぁぁぁ!


「くそっ」


 ルッカさんは変わってないの知ってるけど! 国王軍にちょっとは滞在してたデビッドがどーして学生時代と同じ事やってんだよ!

 あああ、ここからどーすんだ? この二人絶対に多数対少数がどれだけ不利か分かってない! そもそも、ゲートからは沢山魔物が湧いてくるんだから行き成り飛ばしたら後からどうするつもりなんだよ! 

 つーかこれ、転移アイテム持ってるからって後先何も考えてねぇだろ!

 転移アイテムが使えなくなる事故が起きた時とか考えてないだろ、絶対!


「ククク……カイル君、頭に血がのぼってますよ……」


 ルッド君が不敵な笑みを浮かべ地面を強く蹴り空高く跳躍した。

 魔物群れに向けボールの様な物を投げつけた。


「すまん」


 あれは中に粘着性の糸を閉じ込めてる奴で、着弾と同時にそれが周囲に広がって周りの生物に絡みついて自由を奪う効果があるんだっけ。

 俺が補助魔法で味方の能力を上げるみたく、ルッド君は道具の力を使い敵の能力を下げる事が出来るんだっけ。


「私も行きます!」


 それを見てレティナさんが距離を詰めた。

 勿論、味方がナイトより前に出ていて敵の能力を奪ったならその判断は正しい。

 さて、こうなってしまったら俺は一緒に前に出るよりも味方が打ち漏らした敵にトドメを刺したり味方が動きやすく出来る様にするしかなくなるんだよな……。

 後衛担当がルッド君一人よりも俺とルッド君の方が状況の対応力が上がるから仕方がない。

  

「うわあああ!」


 あーあ、デビッドの奴やっぱり魔物の攻撃受けてるし。

 はいはい『ヒーリング』っと……。

 って、ルッカさん? 目の前の敵に執着して横から近付く敵に気付いてねーじゃん!

 この乱戦状況だと『ウィンド・アロー』か。

 これで近付く魔物にダメージを与えつつ吹き飛ばしてやろう。

 レティナさんは適正な間合いをしっかりとってくれるから良いんだよ!

 あ、でもそろそろ『プロテクション』掛けなおそう。

 これはみんなにっと。

 ……。

 なんでナイトの俺がこんな事やらなきゃいけないんだ?

 これ、どっちかってーとウィザードのルッカさんがやる事じゃないのかなぁ。

 なんて言ってもこのメンバーで戦う限りこうするしかないんだよ。

 はぁ……。

 俺は深い溜め息をつきながら、延々と後衛業に徹し続けた。

 ギルドとしての任務だから仕方無い、いや、実際冒険者ギルドからの依頼でも仕方ないんだよな、多分。

 ルッセルさんから魔力回復アイテムは沢山供給されてるからね、うん。

 あ、ルッカさんがバックステップ数回踏んで戦線から下がったぞ、で、魔力回復アイテム使ったらまた前線に戻ったぞ。

 まぁ良いけどさ。

 そんな戦いが長らく続いたんだけど。

 ゲートに何か変化が起きる様子もなく、延々と魔物が産み出される事に変わりはなかった。

 ……いや? なんだあれは? 俺の見間違いか? 気のせいか?

 遥か遠く、上空に何か見えた気がするんだけど……。



ールッセルチームー


「マスターあれは!」


 セザール平原にてダストの動向を伺い暫くしたところでセフィアさんが空を指さしながら声を上げた。


「何か見つかりましたか?」


 レンジャーであるセフィアであるから遠目に見えた様で、ルッセルがそれを確認した。


「翼の生えた何かが空を飛んでる、悪魔かしら?」

「悪魔ですか? セザールタウン付近では珍しい話ですが、例の謎のゲートから湧いて出て来たかもしれませんね」

 

 セフィアの反応を見る限り、SSSランクの冒険者でなければ対峙出来ない様な悪魔ではなさそうだ。

 ルッセルは僅かながらも安堵の気配を見せた。


「いえ……あれは人間……あの顔、ダストよ!」

「……そうですか」


 安全な場所だったからまだ良かった。

 もしもこれが敵からもっと近い位置だったら?

 今この瞬間の油断を狙われたかもしれない。

 いや、考えるのはよそう、今は予想以上に早くダストを見付けられた事を好意的に捉えねばならない。


「翼が生えてるんですよね? 恐らく賢者の石の力の影響か、いや、もしかしたら魔族と繋がりがあるかもしれません」

「厄介な話ね」


 セフィアがキッっと唇を噛みしめながら呟いた。

 確かに相手はウィザードである以上ある程度の空中戦は想定していたが、翼を生やした悪魔に近い姿になっていた事まで想定する事は出来なかった。

 効果的な武器は、弓やボウガンと言った狙撃可能な武器に魔法。

 若しくはルッセル自身が持つ剣技でしかない。

 どう考えても、例えダストが一切攻撃をしなくてもこちら側が不利なのは明確だった。

 

「仕方ありません、カオス学長に報告をせざるを得ません」


 ルッセルは報告を行う為のアイテムを取り出し、カオス学長への報告を行った。


「他ギルドマスターへの応援要請実行の下、賢者の石奪還命令は変わらずでした」

「でしょうね」


 セフィアは予想通りの展開だったのか、どこか落ち着いた口調でいる。

 他のメンバー達も同じ様だ。

 或いは既に覚悟を決めたのか動揺する気配すら見せなかった。


「ダストの性格上、支配したい事は確実でしょう、強大な力を元にまずはセザールタウンを支配しようとするはずです」

「そうみたいね、セザールタウンに向けて何か魔法を撃ったみたい」


 セフィアが額に一筋の汗を伝わせながらゆっくりと告げた。


「皆さん、対魔術装備へ変更し、レジストを受け次第ダストの近くへ転移します。 私が先行しますので皆様は私より後方に構えて下さい」


 同行したメンバーはルッセルの指示に従い準備を整えた。

 ハイ・プリーストが掛ける『レジスト』の光がみなの身体を包み込んだ事を確認したルッセルは

 転移アイテムを使いダストの近くへと転移した。


ーセザールタウン中央部ー


「チッ! ゴミの分際で抵抗してんじゃねぇ!」


 賢者の石が得られる効果を試したダストであるが、冒険者ギルドの要請により派遣されたプリースト達の手により街への被害が押さえられた事に対して悪態を付いている。


「糞が! 一般人如き逃がして何の意味がありやがる!」


 ダストが叫ぶ通り、セザールタウンを歩く一般人は既に避難命令を受け安全な場所に退避していた。

 

「ケッ! 賢者の石つってもこの程度の力かよ!」


 ダストとしては、アーティファクトを手にした以上、もっと強大な力が手に入る物だと思っている様だ。

 しかしながら、ダストの魔法攻撃を受けたプリースト達の消耗は激しく、彼自身が考えている以上に魔力は上がっている。

 プリースト部隊を束ねるリーダーからすれば、どうして自分達みたいなさほど強くもない人間がやらなければならないのか不満に思わざるを得ないだろう。


「短絡的なのだな」

「うるせぇ! 俺様に指図するな!」


 ダストの近くを滞空している使い魔らしき小型の悪魔が放つ言葉に対し、ダストはそれを全否定した


「まぁよい、セザールタウンを破壊出来るだけでも我々としては十分だ」

「だから俺様に指図するなつってんだろ!」


 ダストは再度魔法の詠唱をし炎の魔法を完成させると、それを再びセザールタウン中央部へ向けて放った。

 勿論、プリースト部隊が展開する『レジスト』の前に先と同じく表立っての被害は生じていない。

 何重にも重ねられた魔法防御壁の前に目に見えた成果が上げられてない事に対してダストが悪態を付くが、悪魔が冷静に指摘をする。

 

「うるせぇ! それ位分かってるに決まってんだろ!」


 ダストは氷の魔法を完成させ、同じく放った。


「皆さん! 申し訳ありません!」


 転移道具を使いダストの近くへ転移したルッセルが、ダストの魔法に対する防御壁を展開しているプリースト達の前へ立ちはだかった。

 

「ル、ルッセル様! その様な事は御座いません!」

「いえ、今回の騒動が起こったのは私のせいです」


 ルッセルは、プリースト達へ魔力回復アイテムを渡した。

 

「有難う御座います、空からの攻撃を防ぐ度に魔力を消耗し危うい状況でした」

「そうですか」


 プリーストがルッセルに対し大まかな状況説明を行った。


「状況は、把握しました、冒険者ギルドによる迅速な対応、感謝致します」


 ルッセルは剣を引き抜きダストに対し身構え、自チームに居るハイプリーストに対し『レジスト』による魔法壁の加担を、セフィアに対しては自分より後方で狙撃、ベルセルクに対してプリースト達の盾となる様指示を行った。


「来ます!」


 上空より氷魔法の飛来を確認したルッセルは地面を強く蹴り跳躍、盾を構え、少しでも魔法からみなを庇える様にした。

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