51話「決戦1」
「上層部より、賢者の石奪還命令が下りました。 ダストの生死は問いません、人間同士の殺し合いになってしまいますが、ダストの性格上我々が手を抜けばやられてしまうでしょう」
いつに無く真剣な口調でルッセルさんが言う。
俺は周囲のギルドメンバーをチラッと見た。
ルッセルさんが指摘した通り、例え対象があのダストだろうが人を殺めると言う事自体抵抗感を強く持っている人達が多い様に見える。
でも、それが当然の反応と思う、俺達冒険者は魔物を討伐するのが仕事であって表舞台で活躍している人達が人間に手を掛ける事は無いのだから。
それ以前に、賢者の石を手にしたダストに対して実力で勝つ事がまず難しいと思う。
「それでは、私が指名した方々は私と共に最前線に向かって頂きます、お願いいたします」
ルッセルさんは、主にSランクの冒険者を指名した。
賢者の石の力を得たダストが相手なんだから当然の判断だ。
その中にはセフィアさんも入っていた、しかしエリクさんは入っていない、これは賢者の石を守る魔法陣により魔力を奪い取られたからだろう。
俺は、俺と近い力量の人は強い人と一緒にゲートから産まれる魔物の掃討をお願いされた。
また、セリカさん達も転移魔法を2度使用し残った魔力分だけは手伝いたいと志願した。
「それではお願いします」
ルッセルさんの一礼で今回の報告は締められた。
「ねぇ、カイル?」
「どうした?」
珍しくルッカさんが不安気な声を出している。
「みんな、元気だった?」
「いや、俺はデビッド達と戦ってないから分からない」
「そっか」
確か、昨日デビッド達はエリクさんと一緒に戦っていた。
セフィアさんがルッセルさんと行動する事になったからだろう、今日は俺とルッカさんがデビッド達と共に戦う事になっている。
多分、同じ学校の仲間だから組み易いと思われたんだろう。
残念ながらデビッドとチームを組むのは少々面倒なんだけど。
代わりにエリクさんはセリカさん達と一緒に行動する事になった。
これは、ウィザードチームの練習を兼ねてるのかもしれない。
「デビッド達と会うのは卒業以来だっけ?」
「そうよ、みんな国王軍に入ったんだよね」
そう、みんな国王軍に入ったんだ。
しかし、国王軍に所属して行き成りヴェストタウンの魔物を討伐しなければいけないってのも大変な話と思う。
確かに昨日はエリクさんが一緒に居たから問題無いと判断されたんだろうけど。
だからと言って昨日の今日で学校を出たばかりの俺とルッカさんと一緒にやってくれってのも少しばかり疑問に思うけど。
いや、ルッセルさんから緊急時に帰還出来る転移アイテムを支給されている以上、無茶をしなければ比較的安全なんだろう。
「まだそんなに時間が経ってないのに、物凄く昔な気がする」
「少しだけ、あの頃に戻りたい」
ふと哀し気な顔を浮かべるルッカさん。
「そう?」
「みんなと一緒に居られたあの時間が楽しかったなって」
確かに、ルッカさんの言う通り学生時代は楽しかった。
只管女生徒にアタックし続け玉砕するデビッドに。
生真面目な、将来パラディンにでもなるんじゃないかと感じるレティナさんに。
いつの間にか姿を現し、かと思えばいつの間にか姿を消すまさにレンジャーの鑑と言える、ルッド君。
そして、いつも俺をライバル扱いし張り付くルッカさん、か。
「確かに楽しかったけど、でも、セフィアさんやエリクさんに出会えた事も大事かな」
「君は、いつも前を見られるんだよね、正直羨ましい」
ルッカさん、普段の言動は突っ走ってるハズなんだけど、そんな言葉が出るのは意外だ。
「そういうものなのかなぁ?」
「うん」
「まっ、久しぶりに皆に会えるって事考えればいいんじゃないかな」
「そうだね、私、頑張るから!」
ニコっと笑顔を見せたルッカさんは、くるりと周ると立ち去った。
多分、戦いに向けての準備をするんだろう。
それに合わせて俺も準備を行った。
不思議な事に、準備を済ませ同じ場所に戻って来たタイミングはルッカさんと同じだった。
「行こう」
「うん」
俺とルッカさんは、転移アイテムを使いヴェストタウン南方で見付けたゲートまで転移した。
ダストを追い求めるルッセルはセフィアに対してシュバルツ・サーヴァラーの調査を頼んだ。
「やはり、居ませんでしたか」
誰がどう考えたってアーティファクトを奪った人間が自分の本拠地に居る訳がない。
ルッセル自身居る確率は数%と思っていたのだろう。
しかし、それでも掛かる労力の小ささ、裏をかく可能性を考慮し、万が一を想定し調査を頼んだみたいだ。
「そうね、サブマスターを筆頭にギルドメンバーらしき人物は残っているみたいだったわ」
「有難う御座います、ダストだけが賢者の石を持って逃げたのでしょう。 ギルドメンバーに関しては目立ち過ぎるから何もしなかったと考えるのが無難でしょう」
残る可能性は。
ルッセルが思案してみるも、選択肢があまりにも多過ぎる。
何か魔力でも探知出来ないか? と思うが、幾ら何でも余程の馬鹿以外は自分の魔力痕位消すだろう。
エリク君なら何か出来るかも知れないと思わず思考を巡らせるが、最大魔力を失っている彼を同行させる事は彼の命を危険にさらす事以外何事でもない。
故にそれは出来なかった。
「セザール平原へ向かい、彼の動向を伺いましょう」
ここならば何かあった時に動きやすいし、自分達が襲撃を受けたとしても一般の人々が巻き添えになる可能性を下げる事が出来る。
残念ながら、今はダストが動くのを待つ事が最善手だろう、ルッセルはそう判断した。
ーカイルチームー
「よぉ、カイル! 久しぶりじゃねぇか!」
目的の場所では既にみんなが待っていた。
「相変わらずだな、デビッド」
大した時間は経ってないはずだ。
それでも、学友と再会するだけでも心が安らぐ。
「ククク……相変わらずですね、お二人さん」
「なっ! そんな事ないわよ!」
ルッド君が俺達を相変わらず茶化す。
「あら? ルッドさんはお二人さんとしか言ってませんよ」
「わ、私だってそんな事ないとしか言ってないんだから!」
レティナさんに追撃をされ、顔を真っ赤にして返すルッカさん。
「くっそーーー! またカイルだけ! 俺の何がダメなんだーーーー!」
「女垂らしな所ね、少しはカイルを見習ったら? ま、アイツは女の子に興味が無さすぎるんだけどさ」
ルッカさんから相手にされないデビッドが嘆き叫び、それをルッカさんが冷徹に止めを刺す。
そうなんだ、少し前まではこれが当たり前の日常だったんだっけ。
「いや、俺はその……」
「ククク……再会を懐かしむ暇はありませんよ……」
黄土装束に身を纏ったルッド君がボソリと呟く。
彼の言う通り、少し遠目に見えるゲートからは続々と魔物が産み出されている。
昨日俺が戦った限り大して強い魔物は居なかった。
冷静に、ナイトのレティアさんと俺が敵の攻撃を引き付けている間に、デビッド、ルッド君、ルッカさんが攻撃、俺も機会があれば魔法攻撃を仕掛ければ難なく倒せるハズだ。
「行こう!」
俺は掛け声を上げるとみなに補助魔法を掛けた。
その間、レティナさんが可能な限り前に出、魔物の注意を引き、魔法を掛け終えた俺が盾を構えながら続いて同じラインへと向かう。
これで攻撃を担当する3人の安全が確保され攻撃に専念出来る。
……はずなんだけどな。
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