43話「賢者の石4」

「マスターは、エリク君を見ておいて欲しい、その様子次第でマスター自身がどう動くか決める、ボウヤは出来るだけ私と行動してくれって言ってたわ」

「そうですか」

「ウフ、良かったわね、綺麗なお姉さんと一緒に居られるそうよ?」

「え? いや、その」

「クスクス、冗談よ」

「そ、そうですか」


 勿論ギルドマスターであるルッセルさんの指示なら従う。

 それにしても、隙あらば茶化してくるのはセフィアさんらしいと言えばセフィアさんらしい。



「今回はマスターの真面目さが災いしたみたいねぇ」

「そ、そうなんですか?」

「そうよ、マスターが賢者の石について上層部に報告したところ、例のゴミウィザード君に嗅ぎ付けられたらしいの」

 

 セフィアさんは相変わらずダストをゴミ扱いする、俺もダストは気に入らないからどうでも良いよな。

 

「難しい所ですね」

「だからと言って、ウチのギルドだけで賢者の石をどうにも出来ない以上それは仕方が無いのだけどね」


 セフィアさんの言う通り、賢者の石の前に張られていたあの結界をどうにかする方法をヴァイス・リッターだけでどうにか出来るかと言われたら難しいと思う。

 賢者の石に対する知識だって、単純な魔力、魔法の知識も何もかもが足りない。

 素直に、国に対して報告を上げて、それらの知識があるもの、もっともっと魔法に精通している人達にどうにかして貰うほうが賢明と言えば賢明だ。


「ま、最近面白い事無くて暇だったから丁度良いわ、明日からが楽しみね」

 

 翌日、俺とセフィアさんは早速エリクさんの様子を見る事にした。


「それにしても暇よねぇ?」

「まぁ、そうですね」


 アリアさんがいつも居るテーブルにお邪魔しながら遠巻きにエリクさんを眺めていたが、彼が外出すらしようとしなかった。


「もっとこう、派手に行動起こしてくれれば私達も楽なんだけど」

「そうですね」


 と、一人勉学に集中しているアリアさんの前で言うセフィアさんだ。

 

「それにしてもアリアちゃん、毎日飽きずに勉強してるわねぇ」

「そうしなければ生き残れませんから」

「そうね、沢山の魔法を覚えるのも大事よ」


 セフィアさんの事だから男の話でもしそうだけど?


「攻撃魔法の事をエリクさんに教えて貰いましたから」


 アリアさんは手元にある本をペラっとめくりながら呟いた。

 その内容を覗いてみると『ウィンド・カッター』の使い方について書かれていた。

 へぇ、この前エリクさんに教えて貰ったのは『ファイア・ボール』だったけど、別の属性も着手してるんだ。


「あら? プリーストの貴女が? 頑張るわねぇ」


 セフィアさんも勉強熱心なアリアさんに肯定的な様子だ。


「あらゆる状況に対応する為です」

「そうね、前衛の子達が守り切れない時は必要になるものね」

「はい」

「それで、エリク君、貴女に余計な事しなかったのかしら?」


 珍しくまともな会話を展開していたと思ったらやっぱりセフィアさんはそう言う事を言い出した。

 

「いえ、特に」

「ホント?」

「……はい」

 

 うん? 変だな? 風属性の魔法を勉強してる時点であの後エリクさんがアリアさんに何か教えてる。

 で、あのエリクさんがアリアさんに何もしないのは考え難いし、当のアリアさんがそれを否定してる以上信用出来る訳で。

 シュバルツ・サーヴァラーで盗み聞きした事も考慮すると、やっぱりなんかヤバイ事をやってる気がしてくるなぁ。

 おっと、エリクさんがギルドハウスの外へ出そうだぞ?


「セフィアさん?」

「そうねぇ、やっとエリク君が外出しそうね、そういう事だから、アリアちゃんも早く良い男見付かると良いわね」

「いえ、私はその様な生命体に興味はありませんから」


 締めがの言葉がこうなるとはやっぱりセフィアさんだよな、と思いながらも俺とセフィアさんはエリクさんの後を追う事にした。


「今度は別の方角ね、今度こそ女の子と会うのかしら?」

「だと思います。」


 やっぱりそう言う事を言うセフィアさんだが、いい加減慣れて来たのか俺も適当な返事をした。

 

「エリク君、私達がつけてる事が頭に入って無いのは有り得ないわよねぇ? 転移魔法位使っても良いと思うのよね」


 幾ら何でも自分達がつけている事をエリクさんが想定している事は考えているみたいだ。


「角を曲がりましたね」

「役所方面ね、何か手続きをするのかしら?」


 このままエリクさんを追った所、彼は役所の中に入った。

 俺達は、エリクさん、周りの人達に気付かれない様草木に身を隠しながらこっそりとエリクさんが入った部屋の外に辿り着いた。

 

「じゃ、エリク君のお話を聞かせてもらいましょう」


 セフィアさんが道具を取り出し楽しそうに中の様子を盗み聞きし出した。

 

「エリク君、今回の件の事を報告してるわねぇ? 確かマスターからそんな指示は出てなかったと思うけど?」


 どうやらエリクさんはアーティファクトの件で役所に報告を上げている様だ。

 でも、この件はとっくにルッセルさんが報告を上げていると思うんだけど、どうしてエリクさんが改めて報告を行ってるのだろう?

 

「あーあ、役所に勤めてる怪しい人が何か言ってるわねぇ? 多分権限そこそこだけど、アーティファクトに関与出来る権限は持ってなさそうな、いかにも小悪党って感じがするわ」


 成る程、役所に勤めてるダストみたいな奴が何かやってるって事か。

 ルッセルさん相手では自分が思う様に出来ないから、エリクさんに報告させてるってところかな?

 

「ありゃー、シュバルツ・サーヴァラーの……あーダストって名前が出て来たわ、やっぱりそうとうめんどくさい事になりそうねぇ」


 どうやら、子悪党っぽい役所の人間とダストが裏で繋がってるみたいだ。

 確かに、国家機関と繋がってたらめんどくさい事になるよなぁ。


「そろそろエリク君が役所から出て来そうね、私達も帰りましょう」


 エリクさんから気付かれる前に俺達は撤収しヴァイス・リッターへ戻り今日の一件をルッセルさんへ報告した。


「やっぱり、マスターはエリク君にあんな指示出して無いって言ってたのよ」

「それってエリクさんが自分の判断でやったんですかね?」

「じゃない? けど、私はエリク君が独断でそういう事をするなんて見た事無いのよねぇ」

「なら、不思議な話ですね」

「また明日考えるしか無さそうね」

「そうですね」


 翌日。

 アリアさんの定位置にお邪魔し、遠くからエリクさんの様子を伺った。

 暫くすると、にこにこ笑顔のルミリナちゃんがやって来て自作したと思われる飲み物をテーブルの上に3つならべた。


「えへへ、私の分は大丈夫ですから☆」


 そう言って厨房へ戻るルミリナさん。


「えっとその……」


 俺は苦笑いを浮かべながらアリアさんとセフィアさんを見るが……。


「あら、ボウヤ? 可愛い女の子が貴方の為に飲み物を作ってくれたじゃない?」


 と言いながらセフィアさんは自分が貰った飲み物を俺の方へ寄せて来た。

 クッ、やっぱりそうなるよな? この前のあのクッキーの時もそうだったし……。

 どうして今この瞬間エリクさんが居ないのだろう?

 俺は思わずエリクさんを探そうと周囲を見渡すが……。


「ボウヤ? 今エリク君に見付かるのはマズイわよ?」


 セフィアさんが言ってる事は正しいんだけど、なんでそんなに嬉しそうな声を出してるんですか?

 ええい、ままよ! セフィアさんの言う通りルミリナさんが俺達の為にせっかく作ってくれたんだ、俺も男だ、うん。

 覚悟を決め、ルミリナさんが運んできたカップの中をのぞく。

 ちょっと待って!

 百歩譲って赤とか緑いろをしているのならフルーツジュースって思うよ?

 ああ、また砂糖を塩を入れ間違えたんだって塩辛いフルーツジュースを飲めばいいさ。

 でも、目の前に置かれてる液体の色が『黒』ってどうなのよ! 誰がどう考えたってヤバイ奴じゃん!

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