灼熱の黒曜

Next Stage

 ようやくサイコウェーブのショックから立ち直り、メイド達と執事の待つ階下へ降りる。

 階下ではメイドが一堂に会していた。ウミネコを除いて。

 皆、黙って僕を見ている。先の戦いで憔悴しているだろうと気を使っているにしてはおかしな雰囲気だ。

 皆の様子に戸惑いながらゆっくり階段を下りると、チェコフが書状を見せる。

「最後の戦いです」

 そうか、最後か。それで皆、緊張しているのか?

 いよいよこれで……、と書状を開き、僕は目を疑う。


 驚いた顔でメイド達を見ると皆目を伏せる。チェコフも目を閉じた。

「そんな……」


 もう一度書状を開き、対戦相手の名前を確認する。


『うみねこ』


 同じ名前? のはずはない。皆の沈んだ様子を見れば冗談も出て来ない。

「残念ですが……」

 チェコフが目を閉じたまま言う。


 ウミネコは、去ったのか。そしてよりによって対戦する相手に。

「それにしてもひどいよね~。ここを去るのは仕方ないけどさ~。対戦相手って、絶対作戦じゃん」

「ソウよ、絶対ご主人サマのナサケナイ性格を利用した作戦ネ。策謀の色がアルヨ」

「そうですねぇ~。去るのはごしゅーじんさまの甲斐性のせいですから、仕方ないですけど~」

「ごー主人さまだって、下半身以外の部分がちゃんとついてるにゃんね」

「それで、傷つけてボロボロにしたあげくに捨てた女を更に痛め付けるなんて真似、アンタにできんの?」

 なんだろうこれは。責められているんだろうか。


「事態はそれほど簡単ではありませんよ」

 チェコフは言う。

 ただ心理的に戦いにくい相手と言うだけではない。ウミネコは、こちらの機体性能を全て知っているのだ。そして僕の性格も。

 ウミネコが出て行ったのは昨日だから天音の機体は知られていない。だが天音は……、京司と共に逝く事を選んだ。

 ウミネコの知らない機体があれば、有利に進める事で何か打開策もできそうだと思ったんだけど……。


 共に逝く……? そう言えば、そんなフレーズ前にも聞いた気がするな。


 城内を見回し、隅で動かない人影を発見する。

 そうだ。対戦時も戦っていない、僕もウミネコも知らない機体が、もう一つあった。

 視線に気が付いたのか、少し日に焼けたツインテールのメイドは僕の方を見る。

 しゃかしゃかと四つん這いでアルカの元へ行き、そのままの姿勢で彼女を見上げ、

「僕は……、ウミネコを取り戻したい。そんな事、できるかどうか分からないけど。できるだけの事をしたいんだ。君に、協力してほしい」

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