第二十一章 祈り(8)
八
【bad!】は続いて万三郎の前に立つ。
「おい、中浜、中浜万三郎。俺はクビだってよ。クビになりゃあ、ETも何もあったもんじゃないわなあ。仕事の上下関係がなけりゃ、ことだまワールドじゃあ、俺にひれ伏すしかないわなあ。え?」
万三郎の目の前に立った【bad!】は、万三郎の鼻をつまんだ。万三郎は顔を横に強く振って言う。
「やめろ!」
そう言うそばから、【bad!】はまた万三郎の鼻をつまんだ。
「放せって!」
三度、万三郎の鼻を強くつまみながら、【bad!】が腕時計を見ておどける。
「あっ、十一時、三分、ちょうどを、お知らせしまーっす!」
「頼む【bad!】……時間がないんだ」
万三郎を羽交い絞めにしている【evil】が笑って万三郎の口真似をした。
「頼む【bad!】……時間がないんだ……ケッ!」
【bad!】は万三郎に向き直って、【evil】に言った。
「ようし、放してやれ」
【bad!】の命令に従って、万三郎は解放された。
「そら、隣のシンデレラちゃんをまず助けろ、行け」
【bad!】がにこやかに顎で示す先の、ユキに向かって万三郎は一歩を歩き出すと、【bad!】はすかさず足を出し、それにひっかかって万三郎は勢いよく倒れた。
「ヒーッ、面白え! 馬鹿だねーこいつ」
【evil】は手を打ってあざ笑った。万三郎は膝をついて立ち上がる。その時に、ユキに目配せした。ユキは首元を抑えられているが、目で心得たと返事する。
立ち上がって一歩歩いたところへ、また【bad!】が足を出した。というよりほとんど万三郎の足を蹴っているに等しい。万三郎はつんのめって倒れる。【evil】が手を打って笑う。
万三郎は立ち上がる瞬間、手のひらをグッと【sinister】へ向け、「ふん!」と言った。とたんに【sinister】は、一メートルほど跳ね飛ばされる。その衝撃でユキはその腕からようやく逃れた。と同時に、万三郎に駆け寄り、二人して揃って手のひらを【bad!】に向けた。
「むん!」
【bad!】は数メートル、ステージの向こうの端まで飛ばされ、そこにあった別のががり火の脚に激突し、かがり火を破壊して転がった。だが【bad!】は、その場にあった、火が燃え移った三本脚の棒の一本を手に取ると、すぐに起き上がって、すごい勢いで二人の元へ向かってきた。
「おのれ、殺す!」
凄まじい形相で【bad!】は、先に火のついた棒を振りかぶる。万三郎とユキは、恐怖に目を見張りながらも、再び手のひらを【bad!】に向ける。
その時、鋭い大声が響いた。
「やめろ、それまでだ!」
雉島の声だった。その声で【bad!】は、振りかぶった棒を渾身の力で振り下ろす直前で、ギリギリで耐えた。止めた代わりに声が出た。
「うおおお!」
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