第二十一章 祈り(2)
二
その時、恵美は怒りに燃えて雉島の波を抑え込んでいた。一方の雉島は、念波を発して対抗はするものの、関心を隠さず恵美を試問するという、不思議な状況になっていた。
「この念波は、誰に教わった?」
「おじ様よ」
恵美はちらと足元を見た。古都田は相変わらず意識がない。
「恵美……お前、親は?」
恵美は古都田から視線を外し、キッと雉島を見返して、手のひらを雉島の顔に向け直す。
「私の名前を気安く呼ばないで! 見ず知らずの人に親のことを答える筋合いなんかない!」
食ってかかる恵美にひるみもせず、雉島は問いを重ねる。
「恵美、キジシマという名前の響きに覚えはないか」
「……知らない」
「そうか……」
一瞬表情を曇らせた雉島は、目つきを厳しくして、さらに息を吸うと、ネガティヴィティー波の威力をぐっと増した。それによって、恵美の念波によって包まれたエリアが押され気味になり、念波同志がせめぎ合う境界が恵美のすぐ近くまで寄ってきた。恵美は歯を食いしばって押し返そうとするが、雉島のパワーは強かった。
「恵美、俺と一緒に地中に潜ろう」
恵美はこの人は何を言っているのだと言わんばかりに目を見開いて、さらに手のひらを震わせながら境界線を押し戻そうとしている。
「あなたはソウルズでしょう? 私は、あなたと違ってリアル・ワールドに肉体を持っているヒューマンです。おかしなこと言わないで」
「リアル・ワールドは滅びる。肉体はもう意味を持たない」
「黙りなさい!」
その時、恵美のすぐ後ろで古都田が目覚めた。
「おじ様ッ!」
「恵美ッ、何がどうなってる?」
恵美の意識が古都田に向いた隙に、さらに境界線が恵美の目の前に迫る。
「く……」
必死に食い止めながら、古都田に叫ぶ。
「新渡戸部長が、おじ様を後ろから殴った。後ろッ!」
古都田はハッと顔を後ろに向けた。棒を振りかぶった新渡戸が、夜叉のような顔をして古都田に駆け寄ってくる。
「社長! 身体をどこに隠した!」
古都田に立ち上がる余裕はなく、そもそもなぜ、腹心である新渡戸が自分に殴り掛かってくるのか理解できないのだろう、新渡戸を見たまま凍りついたように動かなかった。
「おじ様ッ、
雉島の念波を封じ込めるのに精いっぱいの恵美が、振り返ることなく叫ぶ。
「うわっ!」
しかし、次の瞬間、声を発したのは、新渡戸の方だった。新渡戸は再び五メートルほど、今度は横に吹き飛んだ。吹き飛ばしたのは……。
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