第十八章 告白(11)

十一


♪山寺の、和尚さんは……


 二人の予想通り、すぐに呼び出し音が鳴る。


「理由は?」


 石川はしぶしぶ話し始めた。


「福沢には、ことだまワールドでお前や三浦が自分の過去を思い出そうとするのを妨害する使命を与えていた。語学学習の邪魔になるからだ」


「何ですって! ど、どうやって?」


「脳波だ。お前と三浦が、過去を思い出そうとしている状況と時間帯を福沢に逐一報告させていた。脳波自体はリアル・ワールドのカプセルでモニターしていた。そのマッチング事例の蓄積をもとに、お前たちに特定の脳派パターンが出現した時、つまりお前たちが過去を思い出そうとした時、電気刺激をお前たちの脳に流し、妨害するようにしていた。事例が増えるほど妨害の精度が高まり、お前たちは学習効果で、たとえ一人でいるときですら、過去を思い出そうとする思考作業を徐々に嫌がるようになる」


「……」


「福沢はお前たちより一年早くリンガ・ラボに収容されていた。あいつはある重要ミッションに失敗したが、今言った秘密任務を遂行させるために、お前と三浦に近づけた。今、あいつが責任を云々と言っているのは、お前たちを裏切っていたという良心の呵責からだろう。分かったか、中浜。分かったら福沢を説得して早く空港に来い」


「……分かりました」


 電話が切れた。


 ユキは万三郎の腕の下で微動だにしない。もう辺りは薄暗くなり始め、雨は冷たい糸を引いて、時々強風でよじれた。


 ケータイをポケットにしまい、しばらくして万三郎がつぶやく。


「ユキ、本当なのか?」


 ユキのかすかな頷きが腕に伝わってくる。


「なぜ、妨害する必要が」


「十二倍速学習に、支障が出るから」


「なぜ分かる」


「私が……その実例だから」


「実例……」


「ひどく情緒不安定になったり……」


「今みたいに?」


「私の同期の二人はもっとひどいよ。異常が認められたら、外部操作でことだまワールド内で気を失わされて、その後どうなったか分からない。カプセルの中でまだ昏睡状態かもしれないし、もうどちらの世界にもいないかもしれない」


「そんな危険なことをさせられてたのか、俺たち」


 万三郎は改めて怒りを含んだ独り言を吐いたが、ユキは自嘲するようにいい放った。


「私たちはみんな、『検体』だから」


 万三郎が後ろから羽交い絞めにして自由を奪っているので、ユキの顔は川の方を向いていた。その川の方に向かって、ユキは独り言を言うように話を続ける。


「検体ナンバーJES―〇二八、三浦杏児と、〇二九、中浜万三郎、それに、私は何も聞かされていなかったけれど、チーム・スピアリアーズの三人もきっとそうね、あわせて五人のETが、KCJが救国官の候補として育成を試みた『検体』だった。みどり組もスピアリアーズも十二倍速を経験して、スピアリアーズの方は三人とも、障害が出たわ」


「あっ! それが……それが、あの修了試験の時の、スピアリアーズの連中のおかしな反応だったのか……」

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