第十八章 告白(2)


 ――やれることはやった……。


 気が高ぶっている。なんだか自分が自分でないような気分だ。みんなはどうしているだろう? 杏児は? ユキは? ワーズたちは……? あれほど会場が希望に湧きたったのは、見えないところで皆が懸命に働いてくれたからに違いない。これはチームワークの成せる業なのだ。


 ――やったな、みんな!


 そう思うと嬉しさがしみじみこみあげてきた。嬉しくて、思いきり泣きたいような気がしたが、前を歩いていた典儀長がドアの前で振り向いたので、万三郎も口を真一文字に結んで立ち止まった。


「ウェールダン、ミスター・ナカハマ。あんなに大きな拍手に包まれたスピーチは久しぶりでした」


「サンキュー、サー」


 典儀長の口の聞きかたの変貌ぶりに万三郎は面食らった。グプタはにこやかに軽く手を振って言う。


「お礼を言うのは私の方です。私の祖国はインドですが、この国連本部に残り、最後の日まで奉仕しようと覚悟を決めていました。今、あなたの演説を聞いて再び希望が湧いてきました。世界はきっと生き残ります。あなたが、私のエスコートする、最後ではない登壇者であろうことを誇りに思います。ありがとう、ミスター・ナカハマ」


 万三郎は差し出された手を固く握り、典儀長と肩を抱き合った。控え室の前にいた警備員が扉を開ける。


「あなたの荷物は、この部屋に置かれたままです。落ち着くまでここで過ごしていただいても結構です。あちらがロビーへの通路ですが、同僚の皆さんは、まだ瞑想室におられますか?」


「いえ、私の演説が終わったら、北ラウンジに集まることになっていますので」


「そうですか、ではどうぞご自由に。ミスター・ナカハマ、またお会いしましょう。(See you again.)」


 最後の”again”をゆっくり言い終えると、グプタ典儀長は議場の方へ戻っていった。


 万三郎は控室の荷物を手にすると、すぐに北ラウンジに向かう。代表部の人たちや、石川審議官、そして杏児やユキが待っているはずだ。 


 ところが、万三郎の演説が総会の最後のプログラムだったため、散会した直後の各国代表団が万三郎を見つけ、万三郎はたちまち大勢に囲まれてしまった。


 次々と握手を求められ、感謝と称賛の言葉を投げかけられるのを邪険に扱うわけにもいかず、笑顔とジェスチャーでひとしきり社交をこなし終えて、ようやく待ち合わせ場所のラウンジで皆を見つけたのは、控え室を出て三十分も経った頃であった。

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