第十四章 覚醒(3)
三
「ケ……ケンタイ番号ってなんだ……?」
万三郎と顏を見合わせた杏児に石川の声が飛んだ。
「次、三浦杏児。ここへ」
「は、はいっ」
石川は、杏児、続いて万三郎にも同様の文書を読み上げた。杏児の検体番号はJES―〇二八、万三郎はJES―〇二九だった。指示書を見ると、ケンタイは「検体」と書いてある。
万三郎が辞令を受けている間、杏児はそっと傍らのユキに話しかけていた。
「おい、僕ら、やっぱり実験台だったんだな。人体に番号打たれてたんだ。でもユキが〇二七だろう? それ以前の検体は何してるんだ?」
ユキは私語をしている万三郎をたしなめるように、自分は身じろぎもせず前を見たままつぶやいた。
「そんなこと、知らない」
その時になって杏児は初めて、ユキが小刻みに震えているのに気が付いた。
「あれっ、ユキ、君、震えてるのか?」
「放っておいてよ!」
「三浦くん、何か不都合でも?」
万三郎が辞令書を受け取るのを待って、石川の隣に立っていた古都田が、杏児を威圧するように口を開く。
「いえ……あの、僕ら、実験対象なのなら検体ではなく『被験者』なんじゃないですか」
石川が言う。
「『被験者』は生きている人間に使う言葉だ。体を実験に供する『献体』は死んだ人間に使われる。どちらも倫理的にデリケートだ。よって我々は単なる『モノ』として扱われる『検体』ということだ。
「我々?」
怪訝な顔をする杏児に古都田が答える。
「私は検体番号JES―〇〇七だ。石川さんは〇〇二、新渡戸くんは〇一〇、それぞれの職務についている」
「えっ、ということは、社長たちも……!」
「私、藁手内は、〇二二です」
そう言いながら、恵美がのれんの向こうから盆に日本茶の入った茶碗を載せて現れる。
古都田は辞令書と指示書を手にしたまま立ち呆ける三人を、戻って囲炉裏の前に座るよう促しながら答えた。
「そうだ。藁手内くんや我々自身も、諸君と同じく実験台だった。我々に共通して言えることが三つある。一つは、先ほどことだまワールドで言った通り、我々は事故に遭い、通常の医療行為では助からなかった、二つは、にもかかわらず脳が無傷で、身体的損傷も回復可能であった、三つは、我々は、死亡届もしくは失踪宣告が出されていて、社会的にはすでに存在していない、ということだ。他に質問は?」
「他に質問ったって……まったく訳わかんない。質問だらけだよ」
古都田から目を逸らして杏児がそうひとりごちる。だが皆に聞こえていたようだ。杏児の前に恵美がお茶を置く。
古都田に続いて、石川と新渡戸も囲炉裏の前に戻ってきて、座布団に腰を下ろした。そして石川が淡々と言った。
「だが、あまりゆっくり説明する時間はない」
「ゆっくりお茶を飲む時間はあるのに……」
小さい声で思わずそう皮肉った杏児を、恵美が「シーッ」と口に人差し指を当ててたしなめるのだった。
「リンガ・ラボのお茶には特別な効力があるの。意味があるのよ」
「このお茶を飲む時間が質疑応答の時間だ。他に質問は?」
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