第十二章 騒乱(7)
七
「うわッ!」
すぐに戻って来た杏児も、少年を見るや同じ驚きの声を上げる。【hope】は杏児にも同じ言葉を吐いた。
「杏児、僕を助けて」
杏児は目を丸くしたまま万三郎に視線を移す。万三郎がその視線を受けて少年【hope】に向き直った。
「個室にいたの?」
【hope】は頷く。
「話、聴いてた」
万三郎はやれやれといった体でその場にしゃがんで、【hope】と同じ目の高さで彼を諭すように言った。
「あいつ、君を探してた。何があったか知らないが、心配かけてるんじゃないのか。さ、行こう」
そう言って【hope】の手を取って立ち上がろうとした万三郎を【hope】は強く振りほどいて言った。
「祖父谷は敵の手先なんだ」
万三郎は振り返って杏児を見た。どういうことだ? 杏児は一度首を横に振ると、
【hope】に直接訊く。
「君はなぜ僕たちと祖父谷の名前を知っている」
【hope】はあからさまに杏児を馬鹿にするように天井を仰いだ。
「話、聴いてたって、言ったろ」
子どものクセに大人を馬鹿にしたような仕草に万三郎は思わず苦笑しながら【hope】に問い返す。
「敵って、あいつがか?」
【hope】がこくりと頷く。
杏児も万三郎につられて苦笑いを浮かべた。杏児も万三郎同様、【hope】の前にしゃがんで目線を同じ高さに合わせて、言い含めるように説明する。
「君、【hope】……だよね。いいか【hope】、祖父谷はさ、確かにいけ好かない奴ではあるけれど、俺や万三郎の同僚だよ。敵とかじゃない」
すると【hope】は、サスペンダーをした黒い半ズボン姿のまま、肩をすくめてチッと舌を鳴らし、杏児をまっすぐ見つめて言った。
「杏児、あんたのその目は節穴か」
面と向かってそう言われて、さすがの杏児もむっとした。
【hope】は言う。
「祖父谷は心配していたと思う? 本当に心配していたらこう言わないか?『見つけたら知らせてくれ』と。だけど祖父谷はあんたらにそうは言わなかった。あんたらが先に僕を見つけたら面倒くさいことになると分かっていたからだ。その証拠に奴は何て言った? 『俺の邪魔をするな、良い子は早く家に帰れ』と言わなかったか?」
「良い子って、【hope】、君のことだったのか?」
「馬鹿、あんたらのことだよ! 奴は僕が個室にいることなんて知らなかったんだから、僕じゃないのは当たり前じゃん、鈍い奴だなあ」
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