第十一章 裏表(12)
十二
「祖父谷くんは、雉島さんと会ってるの?」
「知らねえよ」
「私も会いたい。会わせて」
「知るかよ」
カウンターの向こうに戻った【tapster】に、ユキがいくら懇願しても【tapster】は首を縦に振らなかった。それなら自力で……と、前回、昼間に不時着した時に誘導された、二階へ上がる階段の方向をうかがうと、階段を数段上がった辺りにはすでにスキンヘッドの男とモヒカンの男が陣取っていて、ひしめく他の客の頭越しに、ユキと京子の方をじっと見ている。
「すでに監視されている……」
自分たちが監視されていると知ると余計に、ユキは祖父谷のことが心配になった。他の客の注文に対応している【tapster】に訊く。
「彼は、無事なの? ねえってば」
カウンターの向こうをしかめっ面して行ったり来たりしていた【tapster】はついにイラついて、ユキの前に立ち止まり、上半身を前のめりに傾けて大声で言った。
「いいか、ETさんよう。俺は雉島さんから伝えろと言われた通りあんたたちに伝えただけだ。あそこ、ほら、あんたらのビールだ。待ってろと雉島さんに言われたんなら、あれ飲んでお利口に待ってろ、いいな!」
ユキはついに閉口する。
「それから、あんた!」
【tapster】は隣の京子に厳しい目を向けた。
「さっきからモニターカメラに向かって、ゴリラの物まねしたり、中指を立てるポーズしたり、リオのカーニバルみたいに踊ったりしてるけど、そんなことで雉島さんの注意を引こうたって無駄だ。それどころか下手すりゃご機嫌を損ねて、連れの男の安全にかかわるぜ。それに、営業妨害なんだよ。あんたもあっちで静かに待ってろ」
【tapster】は京子を睨み付けた後は、ぷいと後ろを向いて何か仕事をし始めた。
「ヨッシーの身に何か起こったら、福沢、あんたのせいやからな」
京子は、音楽に負けない程度の声量でユキに言い捨て、テーブルに戻っていく。ユキも仕方なくテーブルに戻った。
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