第三章 由紀(8)

  八


 彼らに反応は、なかった。


――ああ、なんで無反応なのよ、鈍感な男たち!


 この男たちがKCJのETだと知ってからは、私は余計に憂鬱になった。こんな、頼りなさげな細身の男たちがETなんて……。


 私の不機嫌をよそに、ETたちは、満腹になって気が緩んだか、二杯目のビールをやりながら能弁に語り始めた。


「しっかしさ、東京のど真ん中にあんな大きな施設があるなんて、俺、知らなかった。三浦くんは知ってた?」


――ミウラ……あっち側の男はミウラというのか。


 その三浦が答える。


「いや、全然。というか、あそこで何が起こっているのか、いまだに僕は理解できていない」


 そう言うと、三浦は首元に人差し指をやって、ネクタイの結び目を少し下げて、第一ボタンを外しながら言った。


「その前に、中浜くん、僕は三浦杏児あんじと言うんだ。なぜか杏児と下の名前で呼ばれる方がしっくりくるんだ。よかったら今から杏児と呼んで欲しいんだけど」


 もう一人が言った。


「分かった、杏児。俺は中浜万三郎。じゃあ、俺の方も、万三郎と呼んでもらえるかな」


「オッケー、万三郎。ナイス・ツー・ミーチュー」


 タイミングよくマサヨが運んできた二杯目のビールを手にして、二人はジョッキをカチンと合わせた。


――バーカ。


 私は、少なくともETのうちの一人、ミウラ・アンジの、恐ろしく下手な英語の発音を聞いて、何もかも心から嫌になった。


――社長の、バーカ! 


 心底そう思っていた。こんなレベルのおめでたい男集めて、幹部候補生って、いったいどうするつもりなのかしら。私の未来も含めて、こんな人たちに誰の未来を託せるっていうのよ……。


 私はマスターが注いだばかりのマティーニをいきなり半分ほどぐっとあおった。


 マスターが驚く。


「何があった、ユキちゃん! とにかく、今日はもうダメだ、アルコールは終わり!」

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