第28話 正義の味方達③
◇尾田
「ハァ……、ハァ…………、フゥー……、良し……」
不破の呼吸が整い、いよいよコチラに向かってくる。
俺はそれに合わせて、不和の前に立ちはだかった。
「……あ? なんだお前? まさか、俺を止めようとか考えているんじゃないだろうな?」
「そうだよ。悪ぃか?」
俺の返答に対し、不破はイヤらしく笑みを浮かべた。
「馬鹿だろお前!? 見てわからないのか!? 普通の人間が、今の俺を止められるワケないだろ!」
「んなこたぁ、やってみなきゃわかんねぇだろ?」
「わかるんだよアホがぁっっっ!!!!」
不和が腕を振りかぶり、凄まじい勢いで拳を突き出す。
まともに受ければガードしても間違いなくダメージを負うだろうが、これだけ大振りなら避けるのは容易だ。
俺は突き出された拳を右に躱し、そのまま奥襟を掴みに行く。
しかし……、
「やっぱアホだなお前ぇ!!!」
躱した右拳が脇をすり抜けず、こちらの服を掴んでいる。
(しまった!? コイツの狙いも服を掴むことか!)
慌てて突き放そうとするが、尋常じゃない握力で掴まれており距離を取ることができない。
「オラァ!」
「ッ……!」
腹部へ凄まじい衝撃が走る。
喰らう覚悟を決めていなければ、確実に意識を飛ばされるところであった。
(ボディへの膝で、この威力かよ……)
こんなものを喰らい続ければ、気絶どころではなく本当に死んでしまう。
俺は先程よりもさらに強引に不破を引き剥がす。
掴まれていたYシャツが引き千切れたが、気にしている余裕はない。
「アレ喰らって耐えるのかよ? お前、どんだけ頑丈なんだ?」
「ヘっ、こちとら、天然物の鍛えた体なんでなぁ……、そんな無理やり水増ししたような張りぼてとは、モノが違うんだよ!」
受けに回ってはコチラが不利……
ならば攻めるしかない。
俺は軽くジャブを振ってから右ストレートを放つ。
「シッ!」
普段よりも体が軽い。
これまでも絶好調の日というものは存在したが、コレはそのさらに上を行くコンディションだ。
神山の『おまじない』とやらが効いているんだろうが、コイツは大したものである。
顔面を狙った俺の拳は、ガードに阻まれて大きなダメージを与えられていない。
どうやら、怒り狂っているように見えても、防御をするくらいの理性は残っているらしい。
俺は、それでも構わずガードの上から打ち続ける。
「チッ! さっきからチョコマカとうっとしい! お前のヘナチョコパンチなんざ効かねぇんだよ!」
そんなことは百も承知である。
俺の目的はコイツを倒しきることじゃない。
時間稼ぎこそが真の狙いだ。
不破の力は凄まじいものがあるが、肥大化した筋肉が邪魔をするのか、フットワーク自体は軽くない。
今の俺のコンディションであれば、このままアウトボクシングを続けているだけで数分間逃げ切ることができるだろう。
「クソッ……! おい! 馬鹿共! ボーっとしてねぇでコイツを取り押さえろ!」
!? それはマズイな……
完全に観客と化していたので意識から外していたが、不破の仲間はまだ5人ほど残っている。
コイツだけでも手に余っていると言うのに、他の奴等に参戦されてはとてもじゃないが手に負えない。
「ハ、ハイ!」
固まっていた数名が、不破の声に反応して動き出す。
万事休すか……?
いや、それならもう、相打ち覚悟で……
「オルァ!!!」
相打ちになるのを覚悟し、捨て身の一撃を放とうとした刹那、不破の仲間の一人が横合いからの一撃で吹っ飛ぶ。
その強烈な一撃を放ったのは、如月拓矢だった。
「尾田ぁ! この雑魚共のことは気にしねぇで、ソイツに集中しろ!」
「!? お、おう!」
思ってもみなかった助太刀に一瞬集中を切らしかけたが、すぐに目の前の敵に集中する。
想定外の援軍だったが、本当に助かった。
屋上の件もあり、如月拓矢のことは今でも気に入らないが、このタイミングでの助太刀は素直に感謝するしかない。
「グッ……、役立たず共がぁ!!!」
不破の攻撃が荒くなる。
大振りであるため、そうそう当たりはしないが、規則性のない攻撃は読みにくく完全な回避が難しくなる。
本来であれば、そんな攻撃が少し当たったところで大したダメージにはならないが、今の不破の攻撃は
「チッ! 滅茶苦茶だな手前ぇ!」
「るせぇ!!! 死ねオラァァァァァッ!!!!」
大振りな右フックを後ろに下がって
「!?」
下がった瞬間背中に感じる硬い感触……
(しまった、柱か!)
回避に専念していたことが仇となり、ポジショニングをミスってしまった。
「捕まえたぞぉぉぉぉっ!!!!」
不破の腕が俺の両肩を捕える。
俺は慌てて腹部を両手でカバーするが……
「っ!? っがぁ……」
凄まじい衝撃が両腕と腹部に走る。
強烈な膝蹴りが、ガードをこじ開けて腹部へと突き刺さっていた。
本来であれば後ろに散らされるハズの運動エネルギーが、背後の柱のせいで余すことなくダイレクトに腹に伝わる。
不破がニヤリと笑った。
ようやく俺にダメージが通ったことで、ご満悦のようだ。
調子に乗った不和は、再び俺の腹部に膝を打ち付ける。
今度はなんとかガードに成功するが、不破はそれに構わず二度、三度と連続して膝蹴りを放った。
衝撃に意識が飛びそうになる……
膝から力が抜け、背中からズルズルと音を出しながら、腰が落ちていく。
「ハァ……、ハァ……、ようやく、沈んだか、デカブツめ……! 苦労、させやがって……」
不和の息が荒い……
もしかすると、コイツも限界が近いのかもしれない。
そんな一筋の希望が、失いかけた意識を一気に覚醒させる。
俺は倒れかけの姿勢から、不破の腰付近目掛けてクリンチに行く。
「っ!? お前、まだ動け……!? グギァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?」
俺はそのまま不破の腰を締め上げ、リフトする。
いわゆる、ベアハッグというヤツだ。
不破はもがいて何とか脱出を試みるが、残念ながら逃がすつもりはない。
「はず……、外れねぇぞ!? 本当に人間かお前ぇぇぇっ!! は、放せクソがぁ!!!!!」
「て、手前ぇにだけは、言われたくねぇな! ……ところでよ、ここの床、コンクリート、だよな?」
「っ!?」
不破が激しく暴れ出す。
今の一言で、俺が何をしようとしているのか察したらしい。
「その反応からして、今の手前ぇでも、コレを食らったら流石にヤベェみたいだな!」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!」
「フロントスープレックスってヤツを、体験させてやらぁぁぁぁ!」
俺はそのまま後ろに反り返るように、不破を床に叩きつける。
――鈍い音と共に、不破の汚い悲鳴が途切れた。
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