第24話 拉致
――――放課後。
今日の授業は珍しく5時限で終わりだ。
たった1時限とはいえ、少ないとなんだか得をした気分になる。
他のクラスメートも同じなのか、いつもよりも幾分かテンションが高い気がする。
「神山、今日も行くんだろ?」
「ああ、尾田君。ただ少し早いし、その前に少し部室に寄ってくつもりだよ。君も来るかい?」
「んー、まあ、結局行くとこは変わらねぇし、そうするか」
◇
ガラガラ
部室の扉を開けると、既に静子が来ていた。
「あ、師匠」
「静子、相変わらず早いな」
終業時間は俺達と同じはずなのに、静子は大体一番先に部室に来ている。
あまり想像はできないが、チャイムと同時にダッシュしてるんじゃないかと疑うレベルだ。
俺に続いて一重、麗美、そして尾田君も部室に入ってくる。
やや手狭とはいえ、元は更衣室である。
人が複数人着替えることを想定した部屋作りであるため、尾田君が如何に巨漢と言えど普通に入る分には問題ない。
「はい、師匠。実は如月真矢の兄、如月拓矢の消息がやっと掴めまして」
「本当か?」
「はい。私の監視網に引っかかったのは先日の深夜で、先程解析が終わりました」
椅子を引き寄せ、静子の隣に座り込む。
同じように反対方向に椅子を寄せて、麗美も画面を覗き込む。
それを見た一重が、慌てて俺の隣に椅子を寄せて座る。
正直、一重は画面を見ても理解できないとは思うが、まあ好きなようにさせよう。
「お前ら、相変わらずだな……。それに、今更だが師匠ってなんだよ?」
「ん、まあ余り気にしないでくれ。単に、静子の電子操作技術は俺が教え込んだというだけだよ」
「そう、だから師匠なんです。それより、これを……」
静子が画面を指さす。
そこに写し出されていたのはネットワークコミュニケーションツール、SNSの画面だった。
「これは如月拓矢のアカウントです。これに先日深夜、呟きがありました」
「SNSか……。って、なんで如月拓矢のアカウントだってわかるんだ?」
「まあ色々と。……やり方は企業秘密です」
「企業なのかよ……」
実のところ、アカウントの特定はそこまで難しいことではない。
あまり何も考えずにSNSを利用している学生などは、進んで自らの個人情報を公開しているものも多いからだ。
如月拓矢も、アカウント名やプロフィールに情報は記載していないが、過去の呟きや写真などに特定しやすい情報が含まれていた。
……まあ、それを抽出する技術に関しては、企業秘密と言えなくもないが。
「それで? 如月拓矢は何を呟いたんだ?」
「『ゴレンジャイ、バカにして悪かった。面白いな、コレ』だそうだ。これは……」
「如月真矢に対してのメッセージ、なのでしょうか? ……ん、リプライがありますね」
「自己リプみたいですね。『本当にこんな奴等いてくれたらなー』『いるわけねーけどな』『はぁ~、帰りてぇ』文字数的には収まるのに、一々リプにしてるのは何故でしょうか?」
帰りてぇ、か……
………………………………っ!?
「ど、どうしたの良助?」
俺の視線が鋭くなったのを、一早く察知した一重が尋ねてくる。
「……これは、マズいかもな」
「ん? 何がマズいんだ?」
ガララッ!
そのとき、部室のドアが盛大に開かれる。
そこに立っていたのは、如月真矢であった。
「……やあ、如月君。やっと学校に来てくれる気になったのかい?」
どうやら、俺の嫌な予感が当たったのかもしれない。
そう思いつつも、俺は努めて冷静な態度で如月真矢に問いかける。
如月真矢は、そんな俺の問いを無視するように言う。
「……お前ら、お袋と出かける約束とか、してたり、しねーか?」
「いや?」
俺達は互いに顔を見合わせるが、皆首を横に振る。
「……帰って、こねぇんだ。お袋が……」
◇如月拓矢
ここはどこだろうか?
ぼんやりとした視界に映し出されたのは、見覚えのないコンクリートの天井。
「痛っ」
頭を捻ると、硬い床に擦れた部分がズキズキと痛む。
しかし、その痛みのお陰か、徐々に意識がはっきりとしてきた。
身動きが取り辛い……
どうやら、手足を縛られているようだ。
「やあ、ようやくお目覚めですか」
「て、てめぇは……」
声のした方向になんとか首を傾けると、そこのは数人の男達と、その中心にあの男の姿があった。
「いやいや、中々に手こずらせてもらいました。周辺の漫喫やネカフェは押さえていたのですが、まさかラブホテルを利用しているとはね」
ラブホテルを利用したのは、近くに人の気配を感じる場所に寝泊まりする勇気がなかっただけである。
同じ理由でカプセルホテルも却下。
選択肢はビジネスホテルとラブホテルの二択となった。
金銭的な面で言えばビジネスホテル一択なのだが、受付など煩わしい部分もあるため、俺はなるべくラブホテルを利用することにしていた。
どうやら、それが幸いしたらしい。
しかし、先日俺は、ついにホテル以外の場所……、ネットカフェを利用する羽目になった。
残念ながら、俺にはホテル生活を続けるほどの財力がなかったのである。
いや、仮にあったとしても、こんな生活を続けることは不可能だっただろう。
ラブホテルを一人で頻繁に利用していたら、怪しまれてもおかしくないからだ。
「君の財政事情は把握していたから、なるべく格安施設を利用すると思ったんですがね……。まあ、今はいいでしょう。その辺の事情は追々聞くことにします」
男はそう言って俺に近づくと、髪の毛を掴んで顔を上げさせる。
「全く、苦労させられましたよ。お陰で一週間近くも計画が遅れました。だから君には、これからたっぷりと働いて貰いますよ? 今日はそのために、わざわざこんな舞台を用意したのですから」
舞台……、ね。
恐らくここはは、都市部から外れた廃ビルか何かなのだろう。
隠れて悪さするには打って付けの場所だ。
「……俺を、どうするつもりだ?」
「言ったでしょう? 君達には協力してもらう、と。ですが、残念ながら君は信用できない人のようなのでね……。保険をかけることにしたのです」
「……? 保険……?」
「ええ、保険です。君には精神的に屈服してもらうのと同時に、俺達に
パチン、とキザったらしく指を鳴らす男。
その合図に応じて、周囲の男たちがニヤニヤ笑いながら横に分かれる。
キーキーと軋む音と、カラコロと転がる音。
角度的に確認できないが、どうやら台車か何かを押してきているようだ。
男が掴んだ髪の毛を引っ張り、そちらの方向に無理やり顔を向ける。
「フフ……、君のお姉さんです。彼女にも、
荷物などを運ぶときに使われる、手押しの台車。
そこには、一人の女性が載せられていた。
ハンドル部分に両手を縛られ、ぐったりとしている女性――
それは俺の母親、
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