第220話 情報屋へ

新ダンジョンの営業も、軌道に乗ってきて、少し自分の時間が取れるようになってきた。なので、ちょっとわがままなのだが、調べ物をする時間をいただくことにした。


まず、はじめに、俺の部屋にリンスとジラルダ、それとスフィルドを呼んで、相談を聞いてもらうことにした。


「それで、学者アルソネが、話をしていた、『時の満ち欠け』について、調べていこうかと思うんだけど、どうしたらいいか見当がつかないんだ、何か良い方法はないかな」


俺がそう聞くと、ジラルダが、少し考えて、こう話す。

「そもそも、『時の満ち欠け』は謎が多い神器なんです。クリフナーの伝記に名前が出てくるのですが、その見た目や、大きさなども明記が無く、どんなものか尊像もできない物なんです」


「せめてどんな物か分かれば、私が見ることもできるかもしれませんが・・」

スフィルドがそう話す。彼女はすごく目がいいので、探し物を理解していれば、それがどこにあるか探すことくらいはできるそうだ。


「やはり、ここは情報屋に頼むしかないですね」

下を向いて考えていたリンスが、顔を上げると、そう発言する。

「情報屋?」

「そうです。お金を払えば、どんな情報も教えてくれる人たちです」

「そんな便利な人がいるんだね」

「だけど・・内容によって金額が違うのですが・・おそらく、今回のように、伝説級の情報となると、相当高い金額を提示される可能性があります」


「た・・高いってどれくらい?」

「下手をすると数億ゴルドくらいは・・・・」

「ぐはっ・・そんなの払えないよ」


「まあ、ダメ元で相談だけしに行ってみましょうか」

「そうだね、払える金額であれば聞くことにしよう」


そう決まったので、情報屋へと出かけることにした。同行するのはリンス、スフィルド、ジラルダと、アスターシアとマゴイットが、どこで話を聞いたのか、ついてきた。


他のみんなは、ダンジョンが営業中なのでお留守番である。留守の管理はフィスティナに任せて、早速出発した。



俺たちは、アルマームで一番と評判の情報屋へとやってきた。そこはミュラ魔導商店街の路地裏に、ひっそりと営業していた。見た目では判断できないと思うけど、小さな小屋のようなその建物からは、腕のいい情報屋には、とても見えなかった。


丸みのある扉を開くと、扉に取り付けられている、来客を店主に知らせる鈴がなる。それを聞いて、店の奥から、若い女性が出てきた。いや、若い女性と言うか・・少女と言った方が良い年齢に見える。耳の形などから、エルフのようだけど、どうだろうか。


「いらっしゃいませ。どうぞ、そちらにお掛け下さい」

「は・・はい」

小さな部屋に、複数の椅子とテーブルが置かれていたので、そこに座る。


「今日はどのようなご用件ですか」

エルフの少女から、丁寧な口調でそう聞かれる。

「はい。少しお聞きしたいことがありまして・・」

「そうですね、ここにくるお客さんは、皆さんそうおっしゃいます」

そりゃそうだ。情報屋に来るのは、何か聞きたいことがあるから来るに決まっている。どうも、小さな少女から、大人っぽい言い回しをされて、調子が狂っているようだ。

「え・・と、実は、ある神器について聞きたくてきました」

「なるほど。その神器がある場所を聞きたいのですか」

「いえ、それが・・場所というより、その神器がどんなものかもわからないので、最初にそれを聞きたいと思ってまして・・」

そう紋次郎が聞くと、少女はこう質問してきた。

「では、その神器とはなんですか」

「『時の満ち欠け』と言う、神器なんですが・・」

その単語に、明らかに、少女の空気が変わるのを感じた。

「・・・それはまた厄介な・・」

「ご存知ですか?」

「そうですね・・あなたよりは知っているかもしれません」

エルフの少女がそう言うと、紋次郎は嬉しそうな顔をする。

「本当ですか! その情報はいくらですか?」


紋次郎がそう言うと、少女は困ったような顔をした。

「これは売り物じゃないです。お売りすることはできません」

「・・・それじゃ、売れる情報はありませんか」

さらに少女は困った顔をする。少しそのまま黙っていたが、意を決したように、紋次郎にこう聞いてきた。

「『時の満ち欠け』とは何か知っていますか」

「時間を戻したりする力があると聞いています」

「そうです。時の力があるのです。それは途轍もない力で、悪意を持つ者が、その力を持ってしまうと、この世界を驚異にさらすほどの大きな力なのです」

それを聞いて、彼女が俺にその情報を売ってくれない理由がわかった。

「どこの誰かもわからない人間に、教える情報ではないということですね」


そうなのだ、ようはこっちを信用できないと言いたいのである。これは一筋縄ではいかないと、改めて思った。



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