第154話 60階層

階段を登り終えると、いよいよエラスラの塔の最上階に到達する。そこは、一言で言うとリゾート地・・南の島の楽園と言えばいいだろうか、青い海、白い砂浜、広がる青空。階段のある場所は小さな島になっていて、そこから長い橋が、フロアーの真ん中の少し大きな島へと伸びている。中央にある島には、小さな家が建っていた。


「すごく遊びたい感じになる場所ですね」

ファミュはその光景を目を細めて見つめ、感想を述べる。

「ほんまやな、水着持ってくるんやった」

「マゴイットもこういうところで水着とか着て遊ぶんだ」

俺は何も考えずにそんなことを言ってしまった。だって、そんな女の子のようなセリフ、意外すぎて思わず・・マゴイットは俺をギロリと睨んで、肘で胸を殴ってきた。強烈な一撃に思わず息がつまる。

「あほか! うちやってキャピキャピするときはするで!」

「ご・・ゴメンなさい・・・」


とりあえず、俺たちは中央にある家に向かった。周りを警戒しながら進んでいたが、その用心がバカらしくなるくらいに敵の気配は無い。中央の島に着くと、家の前の砂浜に、パラソルが広げられていた。そのパラソルの下にはリクライニングした椅子に優雅に寝転ぶ人の影があった。


俺たちはその人に警戒しながら近寄っていく。目の前に近づいてもその人は俺たちに気がついてないのか・・それとも寝てるのか反応がない。サングラスをしているのでその表情は見えないが、かなりの美形の女性であった。金髪の長い髪に、目のやり場に困る大きな胸、そしてモデルのような美脚と完璧なスタイルであった。


その美しすぎる体に嫉妬したのか、マゴイットがイライラしながらその女性に声をかけた。

「ちょっと、ねーちゃんええか。あんた何もんや、ここで何しとんや」

ちょっと強めの口調であったが、その金髪のおねーさんは微動だにしない。


「コラーーー!! 人が話しかけとんや、無視すんなや」

そのおねーさんは静かにサングラスを外した。

「人が寛いでいるに、騒がしい奴らだな。僕はこのまったりとした時間を大事にしてるんだ。もう少しそこで待っててくれるか」


意外な僕っ子キャラ・・いやいや突っ込むのはそんなところじゃないけど、本当に何者なんだろうかこの人・・

「まあ、ええわ、待ってやろうやないか・・・もうこれ以上登らんでええやろうし、時間はたっぷりあるわ」


俺たちはその場所で、その人が動き出すのを待ち始めた。


そして何時間か過ぎた・・・海を眺めてボーと待ってみたが、まだ動く気配がない。さすがにしびれを切らしたマゴイットが再び声をかける。


「おい・・・大概にせいよ・・何時間またせるんや!」

「気の短い奴だな、そもそも人の家の敷地に無断で入ってきてる者の態度なのかそれは?」

「うぐ・・・」

確かにそう言われれば無礼なのはこっちのような気がしてきた。俺は改めて丁寧にその人に話しかけることにした。


「すみません・・無断であなたの敷地に入ってきたのは謝ります。だけど俺は大事な目的の為にここにきたんです。お願いですから話を聞いてもらえませんか」


紋次郎のその言葉に、金髪の女性は少し考えると、話し始める。

「君は少しは話がわかるみたいだね。さすが女神ラミュシャの寵愛を受けてるだけはあるね」


「なんやて!」

「嘘・・・」

その人の言葉に、ファミュとマゴイットが驚きの声を上げる。

「おい、紋次郎、それほんまか?」

「え・・何が・・」

「女神ラミュシャの寵愛や!」

「え・・と本当だけど・・・」

「お前、どえらいやっちゃな・・それがどれくらいすごいことか全然わかっとらんやろう」

「ま・・色々便利だけどね・・ははっ」

俺は苦笑いしてその場をごまかす。


「まあええわ、それでお前は何者なんや、ここで何しとるんや」

マゴイットのその言葉に美人のおねーさんは淡々と答える。


「僕はここのボスキャラだ。まあここまで来たのは君たちが始めてだからボスっぽいことするのは始めてだけどね」


想像できなかったわけではないけど、この美人のおねーさんがラスボス・・・意外な展開に俺たちは一瞬言葉が止まる。


「あの・・ボスキャラってことは俺たちと戦うんですか?」

「もちろんそうだよ。その為に僕はここにいるんだから。君たちが僕を倒せば、この塔を完全攻略したことになるんだ、なので頑張ってくれ」


どう返事したらいいんだろうか・・見た目からはとても戦うような人には見えないんだけど・・

「ええと、ここで戦うんですか?」


「いや、ここを壊されるのは嫌なので、下の階層で戦おうか、あそこなら広いし思いっきりやれるだろう」


よくわからないけど、成り行きなのか必然なのか・・俺たちはエラスラの塔のラスボスと戦闘に突入する。

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