第148話 古の民族

この塔ができたのは村長にもわからないそうだけど、彼らの先祖がこの塔で暮らし始めたのは千年ほど前のことらしい。先祖はイバラキという国から移り住んだと言い伝えられているが、そこがどこなのかはもう誰も知らないそうだ。


長い塔の生活の中で、皆、ここが塔の中であることを忘れていた。長老となる者はその知識として代々受け継がれていたので認識していたが、実際、外の世界がどんなところなのかは知らなかった。


「千年もこんな場所で生きてきたんですね・・」

村長はそんな俺の言葉を、少しおかしいことを言っているような感じで返してくる。

「ほっほっほっ、こんな場所といいなさるが、わしらはここ以外の場所を知らぬからな、生きられる場所でただ生きてきただけなんじゃ」


「確かにそうですね・・失礼しました。村長、一ついいですか、このフロアーはモンスターがいないようですけど、どうしてなんですか?」


「モンスターとは下の世界や、上の世界にいる異形の物たちのことじゃな、あやつらはここには入ってこれぬよ、といっても理由はわからんのだがな、先祖様が何やら仕掛けをしてくれているようじゃが、それが何なのか今はわからんのじゃ」


「たぶん強力な結界のようなものじゃないでしょうか」

「そやな、しかし、ここの塔のモンスターを入れなくするような強力な結界よう作れたな」


「そういえば食べ物とかは問題ないんですか?」

人間が生きていくのに最低限必要な水と食料が、この塔の1フロアーで供給できているのか疑問に思った。水は綺麗な川が流れているので問題なさそうだけど、食料はどうなんだろう。


「ここは食べるものには困らんぞ、山には数多くの山菜や芋、キノコなどが食べきれないくらいあるし、川でエビや魚もたくさん取れるしの」


水は豊富で食料も沢山あるし、モンスターも入ってこない安全地帯、千年もこの村が存続したのはそんな理由なんだと妙に感心する。


「そうじゃ、旅で疲れているじゃろうから、今日はここに泊まっていくがよい。外の話を沢山聞かせてくれるかい」


俺たちは村長のご好意に甘えることにした。村長は部屋の外へ声をかける。

「おい、ユキエ、こちらの方々にお部屋の用意をしてあげないさい」


村長の呼びかけで、先ほどお茶を持ってきてくれた若い女性が現れる。

「かしこまりました。お客様、どうぞこちらへ」

そう言って俺たちを奥に案内してくれる。


通された部屋は大きな和室で、壁に古い掛け軸がかかっていた。旅館のような風情のある雰囲気に、なぜかワクワクする。


「ええ部屋やな」

「そうだね、なんかすごく嬉しくなるよ」

「そ・・そうですね・・ですが珍しい部屋ですね・・壁が紙でできてますよ・・」

「それは襖だね」

「襖?」

「まあ、深く考えないで大丈夫」


部屋に荷物を置くと、俺たちは風呂をいただいた。温泉ではないようだけど、いい香りのする檜風呂で、かなり疲れを癒すことができた。


風呂から上がると、食事の用意がされていた。しかも、お酒まで用意されている。


「おっ・・・・日本酒じゃないかこれ・・」

「ほんまやな、完全に日本酒や・・、まあ、日本じゃうちは未成年やったから飲んだことはないけどな」

「それより紋次郎・・この食べ物・・腐ってませんか・・・」

ファミュは小鉢に入っている、ネバネバの食べもをの匂いを嗅いで、そう小声で伝えてくる。


「それは納豆だね、腐っているといえばそうなんだけど・・」

「納豆やんけ、久しぶりやな」

「え、マゴイットは納豆食べるの? 関西人だよね」

「うちは生まれは関西やけど、長く関東に住んどるから抵抗がないんや、そやから納豆は大好物のひとつやで」


用意された食事は、豪華とは言えないが、村長の誠意が伝わって来るものであった。納豆に川魚、山菜とキノコの天ぷらに煮物など、久しぶりの和食に胸が高鳴る。


「粗末なものですが、どうぞ召し上がってください」

「遠慮なくいただきます」


手を合わせていただきますと言うと、俺たちはすごい勢いで食べ始めた。この食事、見た目そうだけど、実際に食べると、想像以上に美味しい。


それにしても、ここの人たちはどうも和の文化に精通しているようなんだよな、もしかしたら先祖の人たちって日本から来た人たちかもしれないな・・そんなことを考えながら、美味しい食事と日本酒を堪能する紋次郎であった。


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