第137話 さらに上層へ
生き返った仲間たちは、ファミュに神妙な顔で話をする。
「悪いがファミュ、俺たちはここで終わりにしたい。さすがにこれ以上、上層へ行くのは無理だ」
彼たちの意見はもっともである。ファミュ自身も、その意見には賛成ではあった。
「そうですね・・では16階層に上がったらすぐに引き返しましょう。そうすれば記録を更新できますから」
紋次郎は、みんなのその判断を仕方ないと思っていた。さすがにあんな死に方をしたら、ここ以上に困難である上層へはそりゃ行きたたくないと思うだろうと・・
その後、みんなで遺跡の奥にあった階段から16階層に上がる。16階層は15階層と同じ森林フロアーであった。
「さて、それじゃあ、戻るか」
ギュネムのその言葉に、みんな来た階段を降りようとした。そこで俺は声をかける。
「ええと、みんなここでお別れだね、俺は上に向かうから・・ここまでありがとう」
「紋次郎、いくらお前にゴット級の剣があっても、さすがに一人でここから先は無理だ、悪いことは言わねえ、一緒に戻ろう」
「ごめん・・俺はどうしてもここの頂上に行かないといけないから・・・」
「どうしても行くのか?」
「ああ、行くよ」
「死ぬんじゃねえぞ馬鹿野郎・・・」
「ありがとう・・」
みんな思い思いに紋次郎にお別れを言って下の階層へ戻っていく。ファミュを除いて・・ファミュは紋次郎に同行することを望んだ。それが無謀な挑戦だと理解した上で彼女は付いて行くことにしたのである。
「ファミュ・・本当にいいの、かなり危険だと思うよ」
「それはわかってますけど・・まあ伝説級冒険者のプライドとでもいいましょうか・・ここで戻るのは簡単ですけど、やはり冒険者として常に挑戦をしていたいです」
ファミュは、そんなプライドなど本当はどうでもよかった。ただ紋次郎と一緒にいたいと思っただけである。紋次郎はまた一人になる覚悟をしていただけに、そんなファミュの同行は素直に嬉しかった。
16階層は、森林のフロアーの為に視界があまりよくない。二人は階段を見つけるのに苦労させられていた。階段を探している途中、植物形のモンスターや、カメレオンのように自然に同化して襲いかかってきたモンスターと戦闘になったが、正直バロンより遥かに弱く、ファミュと紋次郎は簡単に倒していった。やはりバロンはボス的な位置にいるモンスターのようで、あの強さは特別だったようだ。
しばらく探していると、塔のように伸びる柱を見つけた。中に階段があって、それで17階層へと行けそうである。ただ、少し狭くてゴン太が通れるか心配であったが、なんとかギリギリ、壁に体を擦りながらであるが登ることができた。
17階層、そこは水辺のフロアーのようで、いくつもの川と泉が点在する水の豊富な場所であった。中央部分に高台があって、そこに上層へと続く階段が見えた。しかし、その高台の手前には、大きなドラゴンがウロウロと歩き回っていた。ファミュの話では水龍と呼ばれる種類のようで、大きさからマスターウォータードラゴンじゃないかと話してくれた。
「あの位置をウロウロしてるんじゃ倒すしかないよね」
リュヴァの仲間の可能性があるので、龍はあまり倒したくないんだけど仕方ないよね・・そんな俺の気持ちを理解はしてないだろうけど、ファミュもそれに同意してくる。
「そうですね、無視して通ろうとしてもあちらが攻撃してくると思いますし、ここは先制攻撃で倒してしまった方が安全でしょう」
俺とファミュは、ドラゴンを攻撃する為に、高台の死角から近づいて不意をつくことにした。ゴン太は目立つので、少し離れた場所で待機させた。十分に接近すると、ファミュが飛び出して高くジャンプする。それに気がついたドラゴンは、息を吸い込み、すぐにブレスを吹き出す。ファミュは絶妙の空中感覚でそれを避ける。そしてドラゴンの真上でくるくると回転して勢いをつけて、ドラゴンの頭に強烈な蹴りを放った。重い一撃に、ドラゴンはフラッとバランスを崩して倒れ込む。そこに紋次郎が追い打ちをかける。ターボで加速した紋次郎は、剣を振り回して、防御の弱い腹の部分を攻撃する。腹から切り裂かれてドラゴンはその一撃で動かなくなった。推定レベル250はあるマスターウォータードラゴンも、二人の敵ではなかった。
この後、ファミュと紋次郎は順調に上層へと進んでいく。二人の戦闘スタイルの相性が良いのか、連携らしいこともできるようになり、少し強力な敵も危なげなく勝っていった。だが、順調なのはここまでであった。25階層で、聖獣バロンを超える強敵が待ち構えていた。
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