第100話 救出

「大丈夫か!」

俺は倒れている少年に走り寄った。ボロボロの少年は、震える声で俺に訴えてくる。

「み・・みんなが・・連れて・・かれた・・お願い・・・助けてあげて・・」

それを言い終わると、少年の体からふっと力が無くなる。すぐにリンスが近づいて確認するが、悲しみの表情で首を横にふる。


「なんだよ・・これは何なんだよ・・せっかく助けれるのに・・・どうしてこうなるんだよ!」

俺はこの子の理不尽な運命に本気で怒った。その怒りの感情を見て、リンスが声をかける。

「この子の仲間が連れて行かれたんですよね、すぐに助けましょう。まだ遠くには行ってないと思います」


その言葉を聞いて少し冷静になる。そうだ・・助けないと・・すぐに建物から出て周りを見渡す。すぐにリンスがそれを見つける。


「紋次郎様、あそこを見てください」

それは湖の上であった。遠くの方で、小さな船がこの島から遠ざかろうとしているのが見える。近くに船は置いてないようだ・・どうしよう・・このままでは逃げられてしまう。


俺が焦っていると、何を思ったのかデナトスが湖に攻撃魔法をぶちかます。それは強力な氷結魔法で見る見るうちに湖が凍っていく。そしてあっという間にそれは流氷となる。

「これに乗って追いかけるわよ」

デナトスのその声で、みんなその流氷に乗り込む。でも、このままじゃ流されるだけで、あの船を追いかけるのは難しいよね。そう思ってるとアルティが何やら魔法を唱える。そしてみんなに注意の声を掛ける。


「しっかり掴まってください!」

そういって魔法を発動する。それは風の魔法であった。吹き荒れる暴風に流氷がものすごい勢いで流される。モーターボート並みに加速した流氷は見る見るうちに、追っている船に迫っていく。


「あいつら、どうして子供をさらったんだろう・・」

紋次郎は不意に思った疑問を口にする。それにリンスが重い顔で淡々と答えた。

「子供は高く売れますから・・」


その現実が許せなかった。紋次郎は腰につけた閃光丸改に手を伸ばす。


盗賊たちは、自分たちの船にものすごい勢いで迫ってくる物体に困惑していた。しかし、もう少しでアジトのある島へ到着する。あれが何かはわからないが、アジトまで行けば何とかなると彼らは思っていた。


船が盗賊のアジトのある島に到着するのと、紋次郎たちの乗った流氷が追いつくのはほとんど同時であった。流氷は海岸にあった岩にぶつかり粉々に砕ける。紋次郎たちはその前に飛び退き、島へ着地する。


「お前らなんだぁ!」

盗賊のその怒声に、珍しく紋次郎が感情的な言葉を返した。

「うるさい! さらった子供を返すんだ外道ども!」


その声に島の奥から次々と盗賊の仲間が顔を出す。その数は五十人を超えている。しかし・・盗賊たちは、自分たちが何者を相手にしているのか理解していなかった。圧倒的な多数で、その少数の襲撃者をなぶり殺しにするつもりであり、それが実現可能だと信じて疑わなかった。


最初に動いたのは意外にも紋次郎であった。加速のスキルを発動させて、一瞬で盗賊たちとの間合いを詰める、敵が瞬きをする間に数人を地にひれ伏させる。今の紋次郎の戦闘力は、その辺の盗賊など相手にならないくらいに成長していた。リンス、デナトス、アルティも紋次郎に続いて、攻撃を開始する。拘束されている子供達に危険のないように範囲攻撃は控え、単体で撃破していく。盗賊には冒険者崩れの者も多くいたが、レベルが違いすぎる。あっという間にその悪党どもは殲滅された。


紋次郎達は袋に詰められていた子供達を解放する。袋から出された子供達は紋次郎の顔を見て泣きながらすがりつく。自分が助け出されたのを理解したのである。


その後、助けた子供達から話を聞いたのだけど、盗賊達は逃げた子供達をずっと探していたらしい。もちろんそれは売り払って金にするためであった。子供の一人が海岸線にいるところを見つかり、居場所がバレてしまい、そこへ盗賊達は襲撃したのである。年長の少年がナイフを手にそれに抵抗したけど、力及ばず、倒されてしまう。他の子供はそのまま連れされて、売り飛ばされるところであった。そして、子供達は年長の少年の死を知ると、泣きぐずれる。


街に戻った紋次郎は、ムーンランベの運営する孤児院に行き、子供達を預かってもらった。盗賊達に殺された少年は湖の見える丘の上に埋葬して、そこに小さな墓を作った。野花をそこに供えて、祈りを捧げる。丘に湖から流れてくる強い風が吹き抜ける。供えられた花の花びらが散り、空を舞い踊る。紋次郎はその花びらの1つを見つめ、少年が天に召される姿を想像した。




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