第87話 ルクセンイデルクの悪魔

紋次郎、ミュラーナ、クロノス、バルトの前衛四人が、接近戦で三体の敵と戦っている。それをデナトス、リンス、アスターシア、メイルが魔法で援護していた。


クロノスが敵の一体に愛用のパルチザンで凄まじい高速の突きをを繰り出す。その攻撃をフラフラと空に浮かぶ風船のように、何気ない動作で避ける。バルトは星の紋章を記した大振りのクレイモアで横に大きく薙ぐ。それは簡単に片手で受け止められる。だが、その隙をついて紋次郎が閃光丸改で攻撃する。光の閃光を避けることができず、敵に直撃する。しかし、攻撃を受けた敵は何事もなかったようにそこに立っていた。


ミュラーナは魔波動を発動する。強化された攻撃力とスピードで、双剣を振り回し、舞を踊るように敵に斬りかかる。さすがに敵は双子鬼の攻撃力を見抜いたのか、それを手で受けるようなことをはしなかった。風に揺られる柳にごとく動きで、紙一重で避けていく。その動きを見て、デナトスは氷の刃を放つ、小型のドラゴンくらいであれば一撃で葬るその攻撃を、敵はした。雪合戦で雪に当たるくらいの感覚で、頭でそれを受け止める。

「くっ・・なんて魔法防御力なの・・」

「魔法防御も物理防御も回避能力も規格外です・・」


敵の一人がいきなり吠えた。それはグワドンの咆哮のような攻撃で、至近距離にいたバルトがそれをまともに受ける。体の穴という穴から大量に出血してその場に崩れるように倒れた。続けて、敵のもう一人はビーム砲のような魔法でクロノスを貫く、腹に大きな穴を開けて吹き飛ばされる。


「アスターシア、あなたセイクリッドフレアとか使えない?」

デナトスのその問いに、アスターシアは首を横に振りなが答える。

「万能属性魔法ですか、残念ながら使えないですわ」


「それより、英雄強化をミュラーナにかけるってのはどうかな?」

「紋次郎にしてはまともな意見ですけど、あれは連発できない魔法なので、慎重に使わないとダメですわ」


「こうなったら魔法4属性の一斉攻撃を試しましょう」

リンスの声にデナトス、アスターシア、メイルが頷く。

「魔法の相乗効果ですか・・試す価値はありますわね」

魔法の相乗効果とは、属性の反発、相乗、上乗せなどの反応により、通常では考えられないような威力を叩き出すことがある魔法の反作用を利用した攻撃連携であった。しかし、効果を予想できないことから、通常は狙って使用するのは邪道とされている。


「メイルは光属性、デナトスは氷属性、アスターシアは風属性、私は炎属性の魔法でいきます、ミュラーナ、紋次郎様は後ろに下がって!」

リンスの指示で、各々呪文の詠唱に入った。魔法の発動を同時にするために、詠唱時間を調整する。即興でやるとは思えないほど息のあったその連携が、奇跡の攻撃を生む。

「エンターライズ・オーダイム!」

「アイシクル・フリーズストーム!」

「アイオロス・サイクロン!」

火之迦具土神ヒノカグツチ・炎神乱舞」


無数に煌めく光の雷が敵に降り注ぎ、炎をも凍らす極寒の吹雪が吹き荒れる、そこへ凄まじい風の暴力が吹き荒れ、岩をも溶かす火柱が無数に立ち上がる。魔法の干渉時に現れる、虹色の閃光が無数に閃き、やがてその魔法の力は一つの光の塊へと姿を変える。その途方もない魔力の渦の中に取り込まれた三体の敵は、溶けるように光に飲まれていった。


「やったか!」

「どうでしょう・・さすがにあれは耐えれないと思いますが・・」


魔法の光が晴れたその場所には、ぐちゃぐちゃに損壊した三体の敵が、壊れた案山子のように立っていた。しかし、完全には滅していない。それを見た紋次郎たちはとどめを刺すべく動こうとした。だが、敵の様子がおかしい。


ウニョウニョと動き出した敵は、一箇所に集まりだした。それはやがて一つの黒い塊へと変貌する。そしてその塊は何かの形へと変化していく。


人型と言っていいほどのフォルムに、黒と灰色を主体とした体の色、背中には大きく黒い翼を携え、その頭には三本の角を生やしていた。その姿を見たミュラーナが一言呟く。


「ルクセンイデルクの悪魔・・・・・」


ルクセンイデルクの天然ダンジョン、現存する最低難易度の天然ダンジョンと言われ、一番攻略に近いと言われ続けていた。しかし、そう言われて数十年、現在もそこは天然ダンジョンとして存在している。そのダンジョンが攻略できない最大の理由は、最深部に住む、悪魔の存在であった。


英雄級12名を中心とした大攻略遠征部隊を、全滅寸前にまで追いやったルクセンイデルクに住む悪魔・・なぜそれが今ここにいるのか・・・ミュラーナは全く理解できなかった。


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