第81話 脅威
アラクネの討伐で、第一陣、第二陣が大きな被害を受けた為に、ルイーナは第三陣を投入することにした。第三陣はバランスのとれた部隊になっていて、最大人数となる50名が編成されていた。
「おそらくこれで勝負は決まるでしょう」
ルイーナのその言葉にベリヒトが静かに反論する。
「ルイーナ、甘く見ないほうがいい、本当に何が出てくるかわからないぞ」
「ずいぶん紋次郎を評価しているみたいねベリヒト」
「俺たちは実際あいつの配下と戦っているからな・・・」
「ふん・・まあいいですわ、これがダメでも最悪、私たちが出れば済む話です」
英雄級冒険者5人を投入して攻略できないダンジョンなど、天然ダンジョンを除けば、それほど多くは存在しないだろう。ダンジョンの規模などを考えれば、ルイーナには、それがこのダンジョンに当てはまるなど到底思えなかった。
第三陣を含む攻略隊は、それほど苦労することもなくボス部屋へと到達した。そこで待ち構えている小さなドラゴンと重装備の巨人を見て、これがボスかと驚いていた。少なからず攻略隊のリーダーはその2つの存在を侮っていたのだろう、行動に慎重さを失い、様子を見ることもなく、安易に突撃の命令を指示していた。
多くの冒険者がボス部屋に入ったのを見ると、一度小さく縮小すると、一呼吸おいて、大きな巨人の体がさらに大きく膨れ上がる。それと同時に口から地獄の雄叫びが響き渡る。
グワドンの必殺の
途轍もない衝撃波が冒険者たちに襲いかかる。魔法や物理攻撃には警戒していた攻略隊も、まさか音の攻撃を受けるとは思っていなかった。それは防御不能の死の衝撃波であった。
グワドンの近くにいた冒険者は圧倒的な攻撃の前に即死する。死を免れた冒険者たちもその威力に動きを止められる。完全に行動不能となったその一団に、小さな龍から二撃目の死の攻撃が放たれる。炎と吹雪の属性を持つ凶悪なブレスを吐き出した。それは行動を停止していたすべての者に凪ぐように放たれ、等しく死を与えられる。
攻略隊のリーダーの最大のミスは、隊の殲滅時の対応を考えていなかったことであろう。まさかたったの二撃で、精鋭の冒険者たちが全滅するなどと思ってもみなかったのだ。その為に、状況をルイーナに報告することもできない。それは紋次郎たちにとっては最大限の時間稼ぎとなりそうであった。
★
アルティとメタラギのパーティーは、今回の戦いで最大の難関へと差し掛かっていた。それは担当となる最後のダンジョンでのボス戦であった。
「やばいぞアルティ、あれはエンシェントルヴェインアーマーじゃ、魔法防御の異常に高いやつじゃの、お主の天敵じゃろう。それが二体もおる・・・」
「わかってます。並の魔法では倒せそうにありませんね・・」
アルティは魔法だけで、この難敵を倒すことも実は可能であった。しかし、その方法を使用すると、周りの仲間にも影響が出るほどの強力な魔法使用しないといけない為に、別の方法をとるしかなかった。
「来るぞ!」
「メタラギさん、少しだけ時間を稼いでもらっていいですか」
「何するんじゃ?」
「少し考えがあります」
「わかった。ゼブルディ、お前たちも手伝ってくれ」
出番の無いものだと思っていたゼブルディは、喜び勇んで躍りでる。
「任せてください、この静風秘剣のサビにしてくれます」
「ほほっ、それは頼もしいのう」
メタラギたちはアルティの策の時間稼ぎの為に、エンシェントルヴェインアーマー二体と戦い始めた。この難敵は、強力な魔法防御に加えて、剣の達人並に剣技に長けた、まさに強敵であった。
しかし、ここで意外な人物が活躍する。それはここまで出番のなかった止水剣のゼブルディである。彼は舞うような美しい剣技で、エンシェントルヴェインアーマーを圧倒する。さすがに強力な物理防御も持っているこの敵に、ダメージは与えられないが、剣技においては一枚も二枚も上をいっていた。
そこに準備のできたアルティが戻ってきた。その横には巨大な石の巨人を引き連れていた。
「なんと、ゴーレムか!」
「ストーンゴーレムです、このダンジョンにはいい黒曜石がありましたので使わしてもらいました」
ストーンゴーレムはどすどすとエンシェントルヴェインアーマーに近づき、その大きな拳を振り下ろした。ドゴン!と大きな音を立てて、エンシェントルヴェインアーマーが地面に叩きつけられる。ストーンゴーレムはもう一体にも上から拳を叩きつけた。二体とも地面に食い込むほどの打撃を受けたが、まだ元気に動き始めた。
「ダメじゃ、効いとらん」
「問題ありません」
アルティは、エンシェントルヴェインアーマーに、強力な火炎魔法を繰り出した。その攻撃によりエンシェントルヴェインアーマーは高熱によって、真っ赤に変色する。
「今よゴーレム! もう一度拳を叩き込んで!」
命令通りにその拳をたたき込む。エンシェントルヴェインアーマーはその拳を受けてグニャリとその体がペシャンコになる。もう一体も同じようにその拳の餌食となった。
「そうか、熱で金属を弱めて、強力な一撃で仕留めたのか」
「魔法でダメージは与えれませんでしたけど、熱でその金属を柔らかくすることは可能だと思いましたので」
「さすがじゃのう、伊達に年はとってないのう」
「それは言わないでください」
アルティたちは、なんとか担当のダンジョンを全て攻略した。他パーティーを手伝いに行きたいところであるが、距離がある為に、おそらく援軍に向かっても間に合わないであろう。なので後は他のパーティーの攻略を待つことしかできないのであった。
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