第69話 評議会
周りの高層の建物の中でも、ひときわ大きなその存在は、大陸最大組織の本部にふさわしく、圧倒的存在感を示していた。俺とリンスは評議会へ参加するために、ここ、ダンジョンギルド本部を訪れていた。評議会に参加できるのがマスターと秘書1名だけなので、ポーズとアスターシアは宿でお留守番である。
ダンジョンギルドの本部に入ると、4階にある、大会議室へと案内された。俺たちが来た時にはすでに数十人の人が来ており、着席している者、知り合い同士談笑している者、様々である。
俺とリンスは、割り当てられた自分の席に着席しようと、そこへ歩みを進めようとした。しかし、そこへ割って入るように、見知らぬ男たちに声をかけられる。
「お前、見ない顔だな、どこのどいつだ?」
「あ、俺はキュウレイ・ダンジョン群でダンジョンを運営している、紋次郎と言います」
「知らねえな、それより、新人なんだろう? なぜ俺たちにちゃんと挨拶しない?」
「それは失礼いたしました。初めまして、評議会へは本日が初参加になります。どうぞ宜しくお願いします」
「いやいやいや、そんな言葉じゃねえよ、もっとあるだろうがよ・・」
歯切れの悪い物言いである。こいつは何が言いたいんだろうか。
「・・・はあ・・・具体的にはなんでしょうか?」
「わかんねえ奴だな、まあ、いいや、その秘書なかなか美人だな、ちょっと今晩貸せよ」
不愉快な提案である。そんな要望に応える義務はない、俺は即答する。
「断ります」
「はあ? 何言ってるのお前、テメーなんてどうせシルバー会員だろう、俺はゴールド会員だぞ? 何断ってくれてるの。なあ、こいつ分かってねえな」
男がそう言うと、その後ろにいる一人が喋り始める。
「ちょっと無知なのか勘違いしてるのか教えてやるけど、評議会で議題にあげ採決して、テメーみたいな新人マスターの会員権利なんぞ、いつでも剥奪出来るんだぞ」
いやに理不尽に絡んでくる。カサブランカが言っていたのはこの事だろうか。リンスもそう思ったのか、慎重に対応しようとしているみたいだ。
「申し訳ありませんが、マスター様、そのような話は評議会で話してもらえますでしょうか、当方は非公式でのそのような取引には応じません。必要ならばこの事案事態を議題にあげてもいいんですよ」
リンスの堂々としたその言葉に、相手のマスターは嫌な顔をしながら、その場を去っていく。
「ふう、なんなんだあいつら」
「間違いなく私たちに因縁をつけてきてますね。紋次郎様、この後も何かと言ってくるかもしれませんが、なるべく無視してください」
「わかった、なるべく無視するよ」
俺たちが席に着き、しばらくすると、ざわついていた会場内が静かになる。それはある人物が入ってきたからであった。青い生地に、金の模様の入った豪華な正装をしたその人物は、会場の一つ高い位置に設置された豪華な椅子に座る。その人物の隣には、カサブランカさんが立っていた。
「あれがダンジョンギルドのトップ、ギルドマスターのズオルド・アルべです」
おそらくリンスにそう説明されなくても、俺はそれがギルドマスターだと認識できただろう、それくらい他の者と存在感が違っていた。
こうして評議会が始まった。最初の議題は、新規の自然保護ダンジョンの指定や、公的ダンジョンの現状報告などであった。そしてダンジョン法案の改正などが議題に上がり、場合によってはそれを採決する。問題なく議会は進み、評議会も中盤に差し掛かった時、カサブランカが議会をまとめる。
「それでは、しばらく休憩とします。隣の部屋に食事と飲み物を用意しております。そちらでご休憩ください」
俺とリンスは、隣に行こうと席を立つ。そこへ先ほどの悪質なマスターたちが近づいてきた。
「へへへっ、どうだ新人。気は変わってないか」
「あれだったら俺は金を払ってもいいんだぞ、ちょっとだけ頼むよ」
なんて下品な奴らだ、俺は先ほどリンスと話したようにこんな奴らの話など完全に無視をする。
「いいじゃねえかよう・・ほら・・」
そう言ってあろうことか奴らの一人が、リンスのお尻をいやらしく触る。それを見た俺は、自分でも信じられないくらいに感情の高まりを感じる。熱くなった頭ではもう冷静な判断ができなくなっていた。気がつくとその拳を、その無礼な輩に叩き込んでいた。
「紋次郎様!」
周りがざわつき始める。騒ぎを聞きつけて、俺たちの周りに人が集まってきた。
「やってくれたなこの野郎! これがどういう意味を持つかわかってんのか!」
「どうもこうも無い! 堪忍袋は切れるためにあるんだこのやろう!」
激昂している紋次郎を見て、リンスは嬉しかった。自分に対する無礼に、これほど怒ってくれるなんて・・・だけど、ここは納めなければ大変なことになってしまう。
「紋次郎様、落ち着いてください。ここで彼らと揉めるのは得策ではありません」
確かにそうだと思うけど・・こいつらはどうしても許せない。
「何を揉めてるんだ」
そこへ声をかけてきたのはギルドマスターのズオルドであった。
「ズオルド様! この新人マスターが、俺に一方的に暴力を振るってきたんです」
「そうだそうだ、俺もそれを見たぞ」
「俺もですギルドマスター、こいつには重い処分をお願いします」
それに対してリンスが反論する。
「ちょっと待ってください! 最初に、こちらが無礼を受けたのです。それに対する報復です、ご理解ください」
ズオルドは少し考えてから、紋次郎に向き、静かに話し始める。
「この神聖な会議場で、暴力を振るうとは重罪だ。マスター紋次郎・・お前をダンジョンギルドからじょめ・・・」
「お待ちください!!」
そこへ声をかけてくれたのはカサブランカであった。
「ギルドマスター、この者たちの先ほどのやり取り、私が見ておりました。暴力を振るわれたその者が、マスター紋次郎の秘書の下半身を触ったことが発端となっております。それを一方的な処分を与えるのは不当かと思います」
「それではどうしたら良いと思う?」
「ダンジョンウォーで決着を・・・それでどちらも納得するでしょう」
「ダンジョンウォーか・・・なるほどな・・まあそれで良いが、戦力に差がありすぎぬか? ただでさえ三対一と数の差があるのに、中堅規模のダンジョンマスターと新人マスターでは話にならぬだろう」
その話を聞いていたのか、一人のマスターが近づいてきた。そのマスターに紋次郎は見覚えがあった。
「失礼ながらギルドマスター。この私、ランティークに、その新人に助力する許可を頂きたいと思います。そうすれば良い勝負になるでしょう」
「それは構わぬがランティーク、それはこの者の罪を、負ければお前も一緒に受けると言う意味になるのだぞ」
「はい。それも了承しております」
「ではよかろう。ドムカ、エブタン、アルレルの3マスターと、ランティーク、紋次郎の2マスターのダンジョンウォーを開催する」
話はとんとん拍子に進んでいったが、俺は何一つ理解していなかった。
「リンス・・ダンジョンウォーってなに?」
「ダンジョンマスター同士の揉め事で、度々使用される勝負方法です。お互いのダンジョンを攻略しあって、先に攻略した方が勝ちという単純なルールになります」
「うむふむ・・・」
ランティークと呼ばれるマスターが俺たちに近づいてきた。
「紋次郎とやら、よろしく頼むぞ」
「はい。それにしてもどうして俺に助力してくれるんですか?」
「先ほどの無礼を私は見ておって、同じ男として許せんと思っただけだ」
「なるほど・・・あと・・俺たち・・どこかで会っていませんかね?」
「何言ってるのだ、アルマームのダンジョンギルド支部で二度ほどあっているではないか」
「あああああっ。やっぱりあの時の貴族風の人!」
「風ではない、私は貴族だ、高貴な人間なのだ、少しは敬いたまえ」
「はぁ・・・」
そんなやり取りをしてるとカサブランカが近づいてきた。
「ランティーク様、紋次郎様、ダンジョンウォーのルールなどの詳細は明日お話しいたしましょう。そこでエイルの契約も行います」
「わかりました。宜しくお願いします」
そんな感じで俺たちはダンジョンウォーなる勝負を行うことになってしまった。なぜかランティークというマスターが味方になってくれたけど・・・大丈夫なのかな・・
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