第42話 渦巻く悪意

最上階で俺たちを待っていたのは、黒い塊だった。それは人の表情のようでもあり、獣の姿のようでもあった。低い唸り声と高い遠吠え、その二つがハーモニーして奇妙な咆哮となり、紋次郎たちを威嚇していた。デナトスは奇妙なことに気がつく、それはリズーの父と母がそこに存在していると思っていたのだが、それはそんなものではないと気がついたからである。獣霊でもなんでもない・・そこにあるのは・・・


「あれは悪意だわ・・・」

「悪意?」

「そう・・あれは生命体と呼べるものじゃない・・」


それを考えた時、紋次郎は異様な恐怖に襲われる。それじゃ〜自分たちは一体何と向き合っているんだろうか・・・


唐突に悪意はその牙を紋次郎たちに向けてきた。黒い塊の周りの空気が揺れる。その瞬間、強力な衝撃波が紋次郎たちに襲いかかってきた。いきなりの攻撃を避けることができず、みんなまともに受けてしまい、後ろの壁に叩きつけられた。それは、壁を崩すほどの威力であり、相当のダメージを受けてしまった。


「うぐ・・すごく痛い・・・鳴神を着てなかったら死んでた・・」

「クソが! ソォードなんとかしろ!」

「やってみましょう〜!」

そう言うとソォードは跳躍する、一気に黒い塊に近づくと、剣に気を込めて、必殺の連続攻撃を繰り出す。

「鳳凰神影流・千手妙楽剣!」

一秒間に十数手に及ぶ斬撃を繰り出し、黒い塊を切り刻む。しかし、切り刻まれた黒い塊は、切り刻まれたそばから、見る見るのうちに再生していく。

「ソォード! どきなさい〜」

それを聞いたソォードは後ろに跳躍して引く。その、ソォードのいた場所に、デナトスの無詠唱魔法が炸裂する。

「フリーズ・レイザー!」

冷気の魔力が黒い塊に直撃する、直撃した箇所からどんどん氷結して固まり、そして崩れ落ちていく。


「やったか!」

しかし、それはあまりにも甘い考えであった。崩れ落ちた箇所は、すぐに再生していく。ほんとどダメージすら与えている感じがしない。


「よし、それならこれでどうだ〜!」

紋次郎は閃光丸を振りかざす。まー俺にはこれしか攻撃方法がないんだけど・・

閃光丸から発生する光の閃光は、一直線に黒い塊に向かっていき、直撃する。聖の属性を持つ光の攻撃には、さすがに効果があるのか、その光で削ぎ落とされた黒い塊は、その部分を再生することがなかった。


「主! 効いてるぞ! もっと攻撃しろ〜」

「よし・・」

そう思って再度攻撃しようとしたのだが、黒い塊はそれをさせてくれなかった。念力だろうか、ものすごい力で行動を押さえ込まれて身動きができなくなった。


「何やってんだ主! 早く攻撃しろ〜」

「う・・うご・・けないんだ・・・」


しかし、俺の行動を防ぐのに力を集中しているのか、黒い塊の方は完全な無防備になっていた。その隙を褐色の魔導士は見逃さなかった。手持ちの無詠唱魔法では最強の攻撃魔法を発動させる。


「ホーリー・ダイヤモンドダスト!」

キラキラと光る凍結の魔力が、数え切れないほどの粒子となって黒い塊に降り注ぐ。それは聖なる氷の結晶、黒い塊はその一粒に触れるだけで激しい拒絶の反応を示す。バチバチと弾けるような音をさせながら黒いその悪意を消滅させていく。


ギュアーーーーーーーー!!黒い塊はその攻撃により、意識が途切れたのだろう、俺の行動を止めていた念力もその力を失った。


「止めだ! 喰らえよ閃光!」

閃光丸からの光は、デナトスの攻撃魔法で小さくなった黒い塊を捉える、激しい光の渦はその体を完全に消滅させた。


黒い塊が存在したその場所を見つめながら、デナトスは何やら考えていた。それはその悪意の正体についてであった。あれは一人や二人の怨念で作られたようなものではないであろう、多分、この塔にはまだ何か秘密があるのではないだろうか・・・それはおそらく知らない方が良い内容なような気がしていた。


「あの黒い塊が声の正体だとは思うけど・・結局あれはなんなんだろう・・」

「そんなのどーでもいいじゃね〜かよ。問題は解決したんだし、帰って飯でも食おうぜ」

「そうですね、リンス殿がこのソォードを心配していることでしょうし、早く戻りましょう」

「それはねーよ」


俺たちは裏の塔を出て、リンスと合流した。

「紋次郎様、ご無事で!」

「リンス、またせたね」

「どうでしたか?」

「声の元凶は倒したわ・・でも根本的な問題の解決になったのかどうか・・」

デナトスは自分の懸念している考えをリンスに語った。その話を聞いて、彼女は何か思い当たる節があるようであった。

「先ほど、ここを通りかかったご老人に少し話を聞いたのですが・・昔この町にあったクワール家の話を・・」

「クワール家? それって確かリズーさんの家と、この町を統治していたもう一つの名家だよね」

「そうです・・そのクワール家ですが今は存在していないそうなんです。その名家が滅亡した理由なんですけど・・ちょっと謎めいてまして・・」

「謎?」

「そうです・・ある日、家の人間が使用人も含め全て消えてしまったそうなんです」

「うわ・・なにそれ・・怖いね」

「・・・・そういうことか・・あの悪意が何かわかったわ・・」

「どういうこと?」

「これはあくまでも私の予想だけど・・あの黒い塊の正体はそのクワール家の怨念ね、おそらく昔、敵対していたリズーのご先祖に塔に幽閉・・いや・・殺されて捨てられたか・・・まー生きてか死んでかはわからないけど、あの塔に閉じ込められたのね・・だからリズーの家を恨んで、その家のものも取り込もうとした・・それでリズーの母親も父親もそれに引き寄せられて・・・」


「それは・・なんとも・・」

「この話はリズーにしますか?」

「いや・・彼女は何も知らないんだよね、じゃ〜話さないでおこうよ・・」

「それがいいでしょう」


リズーにはこの話をせず、元凶の元を退治したとだけ報告した。そこにはリズーの父親も母親もいなかったと補足している。彼女はその話を聞いて大変喜んでいた。俺たちはクエスト報酬であるマルマオの宝玉も無事手に入れることができた。これで今回のクエストは完了である。今度はダンジョンに戻ってリンスの仇を待ち構えないと・・








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