第69話 文化祭Ⅰ

 八 文化祭


 緑坂高校文化祭――通称、緑化祭は緑坂高校生にとっての最大のイベントと言っても過言ではないだろう。何せ、月曜から金曜の五日間にわたって開催される、全国稀にみる規模の大きい文化祭なのだから。生徒たちのやる気も上がるというものだ。まあ、それはあくまでも一般論である。正直なところ、五日間は長すぎるだろ、もう少し短くしてほしい、と思う生徒も少なからずいると思う――そう、例えば、俺のような。といっても、文化祭へのモチベーションが低い側にカテゴライズされる俺が言っても、全く説得力に欠けるってもんだ。

 夏休み最終日に秋月の家で決めた相談部小説に向け、俺たちは活動を進めていくことになったわけだが、なにぶん俺たちは高校一年生で、小説を書いたこともなく、まして編集して商品化するなどは雲の上の出来事とでもいえるほど未知であった。先輩がいれば相談することもできただろうが、部に所属しているのは俺たち一年生四人。

 とにかく、まずは相談部小説について相談できる人を見つける必要がある。いかにして売り物にできるような――あくまでも高校の文化祭での販売だが――本に仕上げるのか、聞くことのできる存在を俺たちは探した。

 なんてことはない、俺たちには顧問がいるじゃないか。学校の事情はもちろんのこと、相談部の顧問ともなれば、社会の事情というものを熟知しているに違いない。高校の文化祭で小説を販売するための方法についてアドバイスをすることなど、たやすいことに違いない。

 しかし、その考えは一瞬にして打ち破られた。

「知らん」

 この顧問の一言で。

「小説をどうやって本にするかだって? そんなもん、出版社にでも問い合わせろ。電話の相手が高校生とわかれば、快く教えてくれるさ」

 このキツイ言葉を発するのが目の前の若い女の先生だというのだから、この世はまだまだ俺の知らないことがたくさんあるのだなと、感慨にふけっている暇はなかった。続けて発した先生の言葉に衝撃を受けたからだ。

「そもそも私は相談部の顧問などをしたいといった覚えは一度もないぞ」

 その後も、どういった経緯で顧問を引き受けさせられたのか、十分ほど愚痴を聞かされた俺たちは、「さあ、帰った帰った」という先生の言葉で職員室から追い出された。

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